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 一方、ロッカー裏の女子の着替えスペースはギスギスとした空気が流れていた。
「なんで今日入ってきたばっかの人とジュニア上りが選ばれるの?」
 袋小路の奥の方で着替えをする美優とさよりの耳に、ふんわりとした声色が聞こえてきた。
 美優がちらと伺うと、ロッカー裏の出口でその人物はふわふわのツインテールをぷりぷりと揺らしていた。
 たしか、早坂麗実と名乗った少女だ。
「ほんと、やる気なくすー」
「あの人たち、何なんだろうね。特待か何かなのかな?」
 同調しているのは彼女と年の近いレッスン生。横目で睨まれた気がして、美優は思わず目をそらした。
 特待――特待生制度のことなのだろう。
 入所審査での成績優秀者は入所金や授業料を免除されるという、養成所生の間で実しやかにささやかれている制度だ。
 黙って着替えながら美優も、さよりは特待生だと思っていた。まだ高校生だし、堂々としているし、可愛いし、声もきれい。おまけに入所審査で基礎科を免除され本科に配属されている。特待生という可能性もゼロではない。
 しかし、自分は特待でも何でもない。
 入所金や受講料が免除されているなんてことはない。今は親が払っているが、社会に出たら働いて返済する約束をしている。
「あいざわって子なんか、自己PRやり直したのに、わけわかんない!」
「ジュニア上りたって大したことないし」
 早坂たちの言葉は美優の胸の奥をかき混ぜる。
 周りの年上のレッスン生が「やめなよ」と注意しても、早坂たちの不満は止まらない。
 心がずきずきと痛む中、美優は思う。
 何で自分が基礎科を飛び級で来たのか、そしてスタジオ見学の選抜に選ばれたのかもわからない。そんなの自分が一番知りたい。
 ここまでやっかまれるなら、早坂と変わって楽になりたい。
 心がざわっとする。
 あぁ、やだな。この気持ちになるの。
 鞄にTシャツやジャージ、プリント類の荷物をトートバッグにぎゅうぎゅうとまとめた美優が目を伏せたその時。
「選ばれなかったからって私たちを妬むなんて、醜いんですね」
 清かに通る声が、妬みに嚙みついた。
 さよりだ。
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