「俺のことを頼ってほしいって、言いましたよね」

「柳……それは、ごめん」

「へえ、じゃあ結局、どれもこれもあの爽やか紳士のおかげってこと? なんだそれ、うざ」

柳がイラついている。

すう、と目を細めてキッチンに置かれている段ボールを見渡した。

「瀬那さんはあの男にだったら、なんの躊躇もなく頼れるんですか」

さっきから柳は何を言っているんだろう。

読めない瞳はまだわたしに向けられている。まるで諌めるように。

頼れる。

なんの躊躇もなく。

柳の言うとおり、どういうわけか伶央にだったら……、きっと。

「とにかく、俺もいるって分かっててください」

「……柳」

「一番近くに、俺がいるから」

「……」

「だから、今回みたいなことがあったら言ってくれないと。助けてあげたい時に、助けてあげられない」

開店までもう少し。

これまでの日常が戻りつつある中で、変わっていくものもあった。

「俺が知らないところで他の誰かの力を借りてるなんて、そんなのもう御免ですよ」
279ページより