「はい……事情は前に話したとおりで」

「ずいぶんと親切な人がいたものですね」

以前住んでいたアパートを追い出されることになって、柳はわたしのことを気にしてくれていた。

「しかも実家と同じフロアに瀬那さんが住んでるとか思いませんよ」

「わたしも柳のご両親が住んでいらっしゃるとは知るよしもなく…」

──チン、

エレベーターが止まる。

エレベーターホールのあたりに出て足を止めた。うわ、ほんとに最上階にいるよ…。

「また、」

「……え?」

「また困ったことがあれば、俺を呼んでください」

なんとなく家に戻るタイミングを見失った。

手持ち無沙汰になり、エレベーターを眺めていると、ランプが徐々に50階に近づいている。2機あるうちの1機が上がってきているのが見えた。

「え、いいの…? こういうの、めんどくさいんじゃなかったの?」

お父さんからの誘いを毎回断るくらいに、高校生になって一人暮らしをするようになってからは、こういった場には参加してこなかったんでしょ?

すると、柳はまた深いため息をついた。

「なんで分からないんですかね、この人は」

「ん?」

「いいから、もっと頼ってください。俺のこと」
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