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私が落とす前に自然に落ちる煙草の灰。長く伸びたそれが、ぽとり、落ちる様は私の切り取られた感情そのままのような気がした。
 昔の話だ。遥か昔遺体を遺族に引き渡したときの話を思い出す。まだ6歳か7歳かの幼い子供が亡くなった母を見て言った。ママは引き算の引かれる側になってしまったの? と。生きている人間と亡くなった人間を数式に表した男の子。それを聞いて涙を流した父の顔を忘れられない。犯人は捕まった。捕まっても尚、彼らの心情は引き算されたままだろう。
 命を削って吸う煙草の灰は彼の言った数式を思い出させる。追いつかない脳みそと感情。処理できないマーサの言葉。私の身体はどこかで引き算されてしまったような気がする。
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