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訳あり保護者と天涯孤独の女の子の、ふたりぼっち同居物語

狼は夜毎、ウソをつく木村

あらすじ 物心つく前から親戚間をたらい回しにされている、天涯孤独の少女、ルル。彼女は十五歳の誕生日にまた家を追い出され、新しい家に引っ越しをする。彼女を迎え入れたのは、ルルとは全く血縁関係がない、酷く眠たそうな顔をした男、鯖目さんだった。 「来るのは男の子だと聞いていたんだが……君の性自認は男なのか?」 「……体も、心も女です」 「そうか。ならば、……買い物が必要だ。この家に女性が住むために必要なものは、何一つ用意ができていない」 鯖目さんは多くを語らず、多くを与えず、多くを求めない。けれど、決して必要なものを惜しむこともなかった。そんな鯖目さんとの生活は、奪われ続けてきたルルにとって、初めての安らぎだった。 だからこそルルは鯖目さんの誕生日に『恩返し』がしたいと申し出る。 「返してもらう恩などない。が、そこまでしたいというなら、一つ、……頼みがある」 鯖目さんは本をめくる音を聞かながらでないと眠れない体質だと打ち明ける。ルルは恩返しのために、毎晩、鯖目さんのために本をめくるようになる。二人は毎晩、本を間に、おだやかな時間を過ごすようになる。 けれどそんな二人の生活は、ルルの十六の誕生日を目前に、ルルの親戚を名乗る男によって唐突に終わりを迎える。 「十六歳になれば、売れるからな」 親戚はルルを金儲けの道具として利用しようとしていた。さらに、ルルが逃げないように絶望させるために、『鯖目がお前を売ったのだ』とうそぶく。ルルは強いショックを受けるが、鯖目さんのことを疑うこともできなかった。 「わたしは鯖目さんに、まだ恩を、返せていない。だから、わたしはまだ、鯖目さんと一緒にいたい……」 ルルは人生で初めて大人に反抗し、父親の家を抜け出し、鯖目さんの家に戻る。鯖目さんは血の繋がりがある家族の方がいいだろうと、ルルを拒絶しようとするが、……。 登場人物 上林ルル 十五歳  天涯孤独の少女 自分のことを軽んじる悪癖がある。本が好き。 鯖目琉生 三十二歳  ルルの新しい保護者 ルルと血縁関係はないが、昔からルルのことを知っていたようで……? 作中に出てくる小説(青空文庫で公開されているものについては一部引用がある場合があります) ① 小公女 https://www.aozora.gr.jp/cards/001045/files/4881_18578.html ② ナルニア国物語 ③ 銀河鉄道の夜 https://www.aozora.gr.jp/cards/000081/files/456_15050.html ④ 果てしない物語
  • ドラマ
  • 連載中 32ページ
「本とは、先人の苦悩であり、挫折であり、地獄であり、成功であり、さいわいであり、天国である。そしてそれらは全て、いま生きている者のために残されている。それを愛せることは、人を愛せることだ」
21ページより