婚姻を間近に控えた或る日。公爵令嬢グレイスの元にやってきたのは、婚約者であるレブロン王国第1王子ハリス。
「婚約を破棄したい」というハリスに、「お望みのままに」と、ふたつ返事で了承したグレイス。
慰謝料を支払う用意があると告げるハリスに、「殿下、ご冗談を」と笑い飛ばした。
グレイス・ベルナ・ローゼンハイムは、ただの公爵令嬢に非ず。
魔神から世界を救った【七耀の星】であり、ラターニア大陸で最も崇められている超攻撃型の『光陰の聖女』である。
「そんな端金などいりませんわ」
彼女はすでに、一国の王子など足元にもおよばぬ名誉と金を持っていた。
別れ際、グレイスは告げる。
「さようなら、殿下。今日の日の決断を、ゆめゆめ後悔なさいませんように」
そんな彼女に恋しているのは、同じく【七耀の星】であり、世界を救う旅で聖女グレイスと苦楽をともにした勇者ライアン。
婚約者がいたグレイスに想いを告げられないまま、泣く泣くあきらめ、泣く泣く祖国に帰還したものの、やっぱりあきらめきれずに、未練タラタラな日々を過ごしていた。