「月子ん家の部屋番号教えて」

月子ちゃんが帰ってしばらく、雅がそう言ってきたのは本当に突然だった。

「⋯⋯は?」

「何?お前知ってんじゃないの?」

「知ってるけど⋯⋯どうした急に。もうあの子とは関わらないんじゃねえの?」

「そんなこと言った覚えねえよ。てかはやく」

苛立ちを含んだ音色で言われても、こっちだって意味わかんねえんだ。雅のご機嫌取りをしてやる余裕はない。

けげんな顔をしてるだろう俺に雅はうんざりしながら息をついて、「忘れ物」と手の中のそれを見せてくる。

「⋯⋯なんだこれ」

「だから忘れ物だって。月子が使ってた洗面台のとこに落ちてたんだよ」

「これだけ?」

「そーだよ」

雅が持ってたのは何の変哲もない、ただの黒いヘアピンだった。

⋯⋯これ、女が死ぬほど持ってるやつじゃねえか?
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