第一王子ジョセフの婚約者として、そして次代の王妃となる者として、幼いころから厳しく育てられてきた名門家の令嬢セティス・マグフォード。
誰もが、セティスが第一王子の妻となり、のちに王妃の座に就くことを当然のように思っていたが、しかしジョセフが平民の少女メリルに一目惚れし、宮殿に連れ帰ってきたことで事は一変する。
瞬く間にメリルが正式に第一王子の婚約者とされることが決まり、立場を追われたセティスは嫉妬に狂い、飲みかけの紅茶をかけるなどの嫌がらせの限りを尽くす。
その所業を知った第一王子ジョセフは激怒。セティスに、二度と姿をみせるなと言い放ち、貴族の身分をはく奪し、平民へ落とした――というのが表向きに伝わる話である。
すべては三人がそれぞれ目的をもって演じた作戦だった。
主人公セティスの目的は自分のことを駒としか見ていない実家(マグフォード家)のしがらみから抜け出し国立学院へ入学すること。平民の少女メリルは神殿の奥深くにある花女神を盗むことを。第一王子ジョセフはメリルに惚れたように装い、花女神を狙う一族を表に引きずり出し、一網打尽にすることを目的としていた。
作戦通りに事は進みセティスは姿を変え、名をルイス・ラードナーと改め、聖女ユーナの侍女として国立学院の入学試験を受ける。
しかし、入学試験の最中に神殿が襲撃される事件が起こり、会場は混乱。煙の位置から事態を察したセティス(ルイス)はジョセフの身を按じ、国立学院内にある隠し通路を使い神殿へと向かう。
作戦では、ジョセフが惚れたふりをして油断させ、メリルもろとも、花女神を狙う一族を捕らえるはずだったが、神殿の扉が開いた瞬間、花女神は忽然と消え失せた。
なぜ、どうして花女神が消えたのか。誰の仕業なのか。
ジョセフは神殿へ繋がる隠し通路の出入り口が国立学院にあることから、学院内に“犯人”がいるのではと考え、セティス(ルイス)と、セティスの主である聖女ユーナ、そしてメリルと取引をして学院に送り込む。
思わぬ形で行動を共にすることになってしまったセティス(ルイス)、ユーナ、メリルの三人。いがみ合い、時に協力し合いながら学院生活を通して打ち解けあってゆく。メリルは当然、ルイスの正体がセティスだとは知らない。
季節は移り変わり学校行事の一つ、夏旅行の日を迎える。
敵がどこに潜んでいるのかわからないため、セティスは学院に残り、ユーナとメリルの二人は夏旅行へ。
その旅行先で、ユーナとメリルは火事にみまわれる。燃えていたのはただの火ではなく魔力による青い炎。メリルはすぐに仲間の仕業であると気がつき、無関係の人々を巻き込んだ所業に動揺する。
青い炎は水では消えず、人々はパニックに陥り逃げ惑う。
人混みに飲み込まれ、思うように身動きが取れないユーナとメリルの頭上に突如、青白い光を纏ったセティス(ルイス)が現れる。セティス(ルイス)は魔力を使い、虫を払うような動作で次々に炎を消してゆく。その表情は何かにとりつかれたようで普段の彼女とは全く異なっていた。
目にした人々はセティスを救世主だと称え、またある者はあれこそが火事の犯人だと罵った。
しばらくして、駆けつけた騎士たちによりセティス(ルイス)は捕らえられる。
一夜明け、ユーナとメリルはセティス(ルイス)が火事の犯人とされ、処刑されることを知る。魔力の気配を探ることのできるメリルは絶対に犯人はセティスではないと言い切り、処刑をなんとかして止めようと、連行されたセティス(ルイス)を追って、ユーナとメリルも王都へ急ぐ。しかし門前払いされ、セティスにも、頼みの綱である第一王子ジョセフにすら会うことができなかった。
そんな絶望と混乱に陥る二人の前に、意外な人物があらわれる。
その人物の名はレイヒ・マグフォード。セティスの異母姉であり、以前ユーナを退学に追い込もうとしたため、学院生活で一戦交えた人物だった。レイヒはセティスを救い、そして同時に大罪を犯したメリルもメリルの仲間も咎を受けず生きる道があることを告げる。
疑問を感じながらも、ひとまずその人物の話を聞くことにする二人。レイヒは二人が知っているルイスの正体が、元第一王子の婚約者セティス・マグフォードであること。セティスの体内に花女神が宿っていること。火事の犯人とされたのは花女神を取り出すためにセティスを殺さなければならないからだと言う。
一方、牢に捕らわれたセティスはジョセフと対面。セティスはこの国のためならば犠牲になる覚悟があると伝える。ジョセフはセティスに隠していたもう一つの思惑と事実を言う。
処刑は非公開で、宮殿内にある神殿で行われる。
神官が高らかに祝詞を読み上げる最中、セティスは何者かによってさらわれ、儀式は中断。
連れられた先でセティスはユーナ、メリルと再会し、事実と、花女神を神殿に戻すための作戦を告げられる。花女神を手に入れるためにメリルとその仲間を差し向けたのは、セティスの実家マグフォード家の人間だった。感傷に浸る間もなく、セティスはユーナ、メリルとともに再び神殿へ。
花女神を取り出し、神殿へ戻す。
その後、ルイスの正体がセティスだとばれ、知らなかったもののマグフォード家の一員であるために国家反逆罪で一時的にとらえられる。
数か月が過ぎ、セティスはルイスとして生きることを条件に解放され、国立学院に戻る。学生生活を送りながら、ルイスの心は徐々に事実を受け止め始めていた。
はじめにマグフォード家が花女神を盗もうとしたことに気が付いたのは姉のレイヒ(十年前)。その思惑で妹が犠牲になることを知ったレイヒは、セティスを第一王子の婚約者にすることでマグフォード家から遠ざけた。十年前の当時、ジョセフはレイヒを慕っており(レイヒはその思いに気づいていた)、レイヒがジョセフに頼み、セティスを第一王子の婚約者にすることは容易だった。
レイヒの目的は妹を守り、そしてマグフォード家の野望をつぶすこと。
途中、なんども道はそれたものの、ほぼレイヒ・マグフォードの作戦通りに事は運んだのだ。
宮殿内の執務室で、ジョセフとレイヒは対峙する。ジョセフは十年前と気持ちは変わらないことを伝えるがレイヒは愛しているのは今のところ妹だけだと言って振る。
別れを告げ、宮殿をあとにするレイヒに「おねえちゃん」と呼ぶ声がある。
振り向けばルイスの姿。姉妹は抱き合う。
ほんのりあたたかい妹の体の温度を感じながら、レイヒは約束通り、妹を守り抜いたのだと実感する。
「すべて作戦どおりです」