森尾月子

もりおつきこ

何気におばちゃんです。
今まで書いてきた書き物を残したくて登録しましたが
どうしたらよいかわからず、
別サイトより手直ししながらUPしています。
妄想ものです。夢物語です。

YUZURU 35

「明日のこともあるからと言って、俺ら5人は22時過ぎだけどあがっていいんですか?」
「誠、明日はばっちりなんだろ?」
「もちろん、貴志のステップの切れも見事だし、弓弦のアドリブもきれいなもん。」
「誠、貴志、弓弦、真志、俊哉。お前らは明日の準備がある。
 切りのいいところで上がりなさい。」
「ありがとうございます。でもいいのかなぁ。」
「良いにきまってるだろう。その代り明日のミスは許さんぞ?
 お前らのステージでその夜の客入りが変わる。頑張って客を呼んで来い。」
「そう言われると、ちと怖いな。(笑)」
「それと弓弦。明日の朝、お前はまっすぐ山本社長の会社に行くように。
 メイクの担当の誰だっけ?薫さんだ。用事があるらしい。」
「薫さんが?どうしたんだろう。」
「Martinの衣装と別に西村さんの所の衣装もメイクも
 薫という人が担当だそうだ。」
「薫さんがかぁ・・・・・そのまま、また翔太にされそうだな。」
「この間もかなり遊ばれてたもんなお前。」
「西村さんと上がるときはそのまま弓弦でいいのにな。」
「無理だろう(笑)あれだけの遊び方だ、次はただじゃすまないと思うが?」
「やっぱりそう思う?」
「貴志、見てろ。面白いもの明日の朝から見れるぞ(笑)」
「今でさえ翔太さんみてるみたいで、面白いんですけど。」
「貴志・・・・お前っ」
「弓弦さん許してくださいよぉ。
 だって、そこまで似ている弓弦さんが悪いんですって(笑)」
「薫さんに電話しよう。あっちの事務所じゃなくって、店でしてもらおうっと。」
「さぁさぁおふざけはこれまで。お前たちは明日のために今日は体を休めろ。」
「はい、では。ありがとうございます。」
「お疲れ様でした、お先に失礼させていただきます。」

5人の夜の勤務はそれで終わり、それぞれの家に帰って行った。
その時弓弦が誠を呼び止めた。

「誠さん。待ってよ、誠さん。」
「どうしたんだ?弓弦。」
「ちょっとさ、家寄ってかない?」
「お前が俺を誘うのは珍しいな。」
「真面目に聞いてほしい話しが3つほどあるんだ。」
「そっか。んじゃ、後ろに乗るのか?」
「あぁ、ひかりのヘルメットだけど大丈夫でしょ。」

弓弦はお店からまっすぐ家に帰宅する。背中に誠を乗せて。

「ただいま。」
「弓弦お帰り、お客さんかい?」
「仕事仲間の相原さん。」
「こんばんわ、お邪魔します。」
「誠さんこんばんわぁ。」
「ひかりさん帰ってらしたんですね。」
「今日は早くね、それよりどうしたんですか?」
「ちょっとね。んで、誠さん。一緒に夕飯どぉ?伯母ぁの料理はうまいんだ。」
「褒めても何も出ないよ?さぁさぁ、こっち気にてすわりな。
 弓弦みたいなお転婆をいつもありがとうねぇ。」
「伯母ぁ?その言い方はないんじゃない?」
「弓弦みたいなじゃじゃ馬は仕事だと真面目なんですよ?」
「誠さんまで。もぉ。」
「弓弦?夕飯にお客さんを連れてくるって珍しいがどうかしたのか?」
「伯父ぃいたんだ。んじゃ食べてから話そうかな。」
「もったいぶるな。昨日の事だろ?」
「昨日のこと?何かあったのか?弓弦。」
「今朝、あたし槙村さんの車運転していったけどどこかぶつけてた?」
「いやいや、そうじゃない。」
「でも誠さんまで一緒って・・・・・。」
「誠さんには隠したくないし、一つ話をしなければならないこともあるし。」
「あのことかい?お前の。」
「あぁそれ。あんまり貧血で倒れるから、余分に心配かけちゃってるし
 こういう原因があるってことやっぱり誠さんには隠せない。」
「歩生さんのこと話すのか。まぁ一番近くで仕事をしている人だ。
 弓弦が倒れる原因を知っておいてもらったほうがいいかもな。」
「伯父ぃ。伯母ぁ。実はさ、沖縄でさあたし2回も倒れちゃったんだ。」
「お前、何も知らない人たちの中で倒れたんか?
 周りびっくりしたろうで。お前も迷惑な人間だな。」
「大丈夫だった?弓弦。」
「一晩は槙村さんが朝まで付き添ってくれた。襲いもせずに(笑)
 我慢してたんだろうなぁと朝は笑っちまった。」
「槙村さんは弓弦に本気だよ?かなり。」
「あと一晩は翔太君が看病してくれた。熱出ちゃったんだ。」
「お前、あの晩熱出てたのか?やっぱり無理してたんだな。」
「ごめん、翔太君にも誰にも言うなって口止めしちゃってさ。
 ばれたら後が怖いし翔太君が怒られると思って。」
「その原因は何なんだ?」
「この子はね、一度生死をさまよう怪我をしたんだよ。相原さん。」
「どうしたんだ?」
「あのさ、誰にも言わないでよ?伯父ぃと伯母ぁとひかり
 そして誠さんにはこれが原因って話をするつもりで今日呼んだんだ。
 西村さんと槙村さんにはもう話はしているんだけど、
 倒れる原因の一つだとは話してない。でも、このことは知っている。」
「ひかり、上に行ってな。」
「あたしもここに居たい。」
「お前は知ってることだろう。お前また泣き出して収集つかなくなるから邪魔。
 さぁ自分の部屋に行ってな。」
「母さんの意地悪。」
「あたしゃ、台所にいるよ。あんた、あんたもあっち行きな。」
「んじゃ、熱燗2本頼む。」
「あいよ。」

そういってみんなバラバラになったが食卓に隣同士に座り弓弦は話を始めた。

「高校一年で、先生と秘密の恋をしたんだ。
 始めはスリル感が面白くて、秘密なことが素敵に思えてて
 その先生の存在がすべてとまではいかなかった。
 だけどね。2年に上がるころ、夏の吹奏楽コンクールがあるぐらいに
 体調を崩したの。なぜかわかる?」
「お前、もしかして妊娠したのか。」
「あぁ。その先生との間に子供ができた。
 検査に行って分かったんだが、その話を先生にもした。
 するとさ、遊びだったんだとあたしは思ってたんだけど
 先生は大真面目で、学校はやめようと言われた。
 きちんと結婚して、僕の子供を育ててほしいと。
 あまりにも若すぎるお前だけど、俺にはかけがえないお前なんだ。
 結婚して一緒に暮らそうと言われた。」
「普通自分の子供ができたら、おろせというなぁ。
 高校生の弓弦だし、教え子だし。」
「隠すのがふつうだろ?
 だけど、その人は遊びであたしと付き合ってはいなかったんだよね。
 その気持ちはうれしかった。すごくうれしかった。
 そこまで愛されていることが、すごく幸せだったんだ。
 だけど、妊娠がわかって一緒に産婦人科に行ったとき検査されたの。
 その検査の結果がさ、「子供はおろさなければいけない」と。」
「なんでだ。」
「赤ちゃんのそばに、《癌》があったんだ。」
「もちろんあたし自身もショックだったし、歩生さんもショックで。」
「そらそうだよな。」
「それがね左側の卵巣が子宮本体の外側に癒着しててその癒着部分が
 腫瘍になってしまってて、それが子宮の壁に食い込んでたんだって
 その食い込みが授かった赤ちゃんのそばにあった。
 そういうことさ。だから腫瘍を取り出す時に赤ちゃんを傷つけてしまうし
 赤ちゃんを残すだけのそんな高度な技術は今の日本には存在しな。
 で、あたしはその腫瘍と共に授かった命を体から出してしまったんだ。
 母も次は産めないわけじゃない。今回だけはお前の命を優先してと
 そう言ってた。」
「普通そうだよな。で、その彼は?」
「とっても優しい人だったのよ。
 でもね、手術して学業に復帰する一週間ぐらい前だったかしら。辞めたの、学校。」
「弓弦には何にも相談なしにか?」
「えぇ。それにもともと部活の先生が復帰されたし
 学校は移動することとなってたんだけど、家業を継ぐとかで
 やめられたの。連絡さえ取れなくなってあたしは不安になった。」
「そうだろうなぁ。でも家は知ってたんだろ?」
「嬉野ってだけ。携帯もつながらなくなったし
 あたし子供を殺して自分が助かったという事が嫌われる原因になったのかと
 そう思い込んじゃった。つらかったな。おかしくなりそうだった。」
「それがある日突然、母の店に来たのさ。彼が。」
「何の連絡もなしにか?」
「テスト中だったんだけど母が忙しいからちょっと手伝ってって
 言って電話してきたから、手伝いに行ったのさ。
 そしたら、すごく痩せて本人ってわからないぐらいに変わり果ててて
 家に電話しても行ってもいなかったからって母の店に来たの。
 話があるからちょっと出てこないかと呼ばれて。
 でも母と常連客が何かおかしいと気付いて、その人を締め出したんだけど
 裏口から入ってこられて、あたし連れて行かれそうになった。
 怖かった、まともな顔つきじゃなかったし、力が尋常じゃなくって
 怖くて叫んで逃げようとしたらそばにあったナイフで一突き。
 おなか。ここを刺された。一文字に15cmほど。見て。」

弓弦は、シャツを引き上げへその下の赤くみみずばれみたいに浮き上がっているその傷を見せた。
誠はびっくりしていた。まだ数年しかたっていない生々しいその傷を見せた弓弦。
誠を見て話しの続きをする。

「もちろん、ここから出た内臓を母は見てあたしの出血で血まみれになりながら
 弓弦!弓弦!お願い、返事してと叫んで泣いた。
 ほかにいた常連さんも、彼を取り押さえ警察に電話したりとかして
 お店ではすごい騒動となったのね。
 すぐ近くに市民病院があって緊急の手術であたしは助かったんだけど
 殺人未遂の現行犯で留置所に入れられた彼があたしには・・・・。」
「つらかったな。弓弦。もういいぞ、泣くな。」
「すごくつらかった、それでも愛している人だもの。
 なんで刺されちゃったのかは理解できなかったけど、
 でも、意識が戻って母の泣き顔がそばにあって二人しかいない家族なのに
 助かってよかったって。あたしも泣いたわ。
 警察の人が来て、殺人未遂で彼が警察署へ連れてっているがと
 話をしに来た時にあたし、彼を留置所から出したかった。
 彼はあたしを殺そうと思った殺意と経緯を警察で話してたんだけど
 あたしは彼を罪人にしたくないと警察で訴えたの。
 だって、愛している人だもの。その人にそばにいてほしかったから。
 話はどうであれ刺された人間が事故だっていえば事故なんだって。
 母もあたしがあんまり彼をかばうものだから、何も言わなくなった。
 車いすを貸してもらって、留置所に行ったわ。
 悲しい顔をして端っこに座っていた。そこにあたしも入れてもらった。
 そして彼に、あなたは別に悪くないといい泣いてあたしは抱きしめた。
 ごめん。ごめん弓弦って何度も言いながら彼は一緒に泣いたわ。
 でもね、そのあと少ししてから彼は留置所から出され嬉野の自分の家に帰って行った。
 そしてしばらくしてから聞いたんだけど、歩生は自宅の裏で首をつって亡くなったって。
 あたし宛に遺書をのこして。真白い半紙に筆で。

 `弓弦へ´
  ごめん。お前を一人にして。俺はお前を傷つけた。
  そばにはいてあげれない。
  ごめん、本当に自分勝手な俺でごめん。
  幸せにな。俺のようなやつにつかまるなよ。

 そう書いてあった。あたし、その事がトラウマになっちゃったのかな。
 人を好きになるのが怖い。抱かれるのが怖い。
 男と女になるのが怖くて、体の自由が利かなくなるのよ。
 無理すると体が何かに反応したように貧血で倒れるみたいに
 倒れることもあれば、体に触れられるだけであたし怖くて
 がたがた震えて意識が飛ぶの。一種の拒絶反応だよね。
 退院してそのことで学校もいづらくなった。
 でもあと一年がんばったら卒業だしと頑張った。
 一生懸命に働いて、あたしを学校に行かせてくれていた母のため
 高校卒業だけはつらくてもって。
 その時の恩師が大学の推薦枠を取ってくれて、頑張って受かるように勉強し
 こっちに合格で来たんだ。それからだよ。誠さんたちと一緒に働い始めたのは。」
「お前の人生も波瀾万丈だったんだなぁ。でもお前は一人じゃない。
 みんな誰彼そばにいる。よかったな、お前は幸せじゃん。」
「こっちに来てすぐに母の元彼がさ湘南でバーをしているんだけど
 バーテンダーの大会があって一人急遽欠員が出て、お前出ろって言われて
 出たんだ。その時オリジナルフレッシュという部門で優勝したんだっけ。
 まぐれにも。貴志がスタンダードで優勝したのもそのときさ。」
「んじゃお前は、貴志をmaskに来る前から知ってたのか。」
「あぁ。一緒に表彰された仲だったから。」
「でも、やっぱり一人じゃない。弓弦、お前は一人じゃないんだから
 過去は過去、前を向いて進まないといけないんじゃないか?」
「あはは、西村さんや槙村さんと同じこと言う。わかっているよ。」
「そっか、ならいいが。」
「でさ、あと2つ。次は前向きな話。」
「なんだ?」
「あたし、西村さんの所の会社とマネージメント契約することとなった。」
「そうなのか?その話だったにおか、今日は。」
「で、ひかりの会社M'companyともいろんな面での契約をすることになったんだ。」
「というと一人のタレントとなるんだな。お前が遠くなるなぁ。」
「伯母ぁ。あたし、頑張るけんね。」
「そうだったのかい。あの話だけをするんじゃなかったんだね。
 弓弦おめでとう。これからががんばりどきたいね。」
「弓弦、おめでとう。でもよく決めたな。あんなに嫌がってたのに。」
「そうしないと次の一つで引っかかっちゃうからさ。
 伯父ぃ、伯母ぁ、ひかりっ!ちょっと!」
「なぁに?話すんだの?」
「最後の一つは誠さんの事。」
「俺の何を知ってるんだ?」
「誠さんは他人じゃないんだ。これはお爺ちゃんから聞いた。
 お爺ちゃんは今も行方知れずとなっている子供を探している。」
「ちょい待ち。俺何も知らねぇぞ。」
「あたしはこっちに来て大学に入り、お爺ちゃんと何度かあっていた。
 伯母ぁごめんね。お爺ちゃんは、あたしがかわいかったらしい。
 何度も何度も大学まで迎えにきては食事を共にしていた。
 話すお爺ちゃんは、悪い人ではなかったし。
 話す中で、お爺ちゃんは悔やんでいることがあると
 誰にも話ができなくて苦しいと言われて聞いたことがある。」
「弓弦の事か?それとも弓弦の両親の事か?」
「お父さんの事をさ。」
「伯父ぃ。知ってるよな。あたしに腹違いの兄がいること。
 伯父ぃが隠していること知ってんだぜ?」
「お前。知ってたのか・・・・・。」
「昔な、お父さんと付き合ってた人に子供ができた。それが誠さん。」
「お前。俺の親父になる人が、お前の親父なのか?」
「あぁ。そう聞いた。その妊娠が発覚してお父さんのお爺ちゃん
 つまりお爺ちゃんのお父さんたちね。家が釣り合わないとか何とか反対して
 別れさせちゃったらしいんだけど、
 その時にはもうその人のおなかの中には誠さんがいたんだって。
 その後お父さんはあたしの母と知り合いいろいろあったらしいけど
 お爺ちゃんは二度と悲しい思いはさせたくないと反対しなかったらしいんだ。」
「相原君。それがきっと君なんだよ。わしはその話は聞いたことがあるが
 それが君とは聞いていない。ここで弓弦の口からきいたのが初めてだ。」
「でね、うちのお母さんと結婚する前ものね、お父さんかなり荒れてた時があったんだけど
 あたしのお母さんと知り合ってまた優しいお父さんに戻っていったんだって。
 でもお父さん、風のうわさでその人が妊娠して子供を産んで
 一人で育ててるって知って探したんだって。
 お爺ちゃんもこっそりと探しうてくれては、いたんだけど
 居場所がわかった時には赤ちゃんの所在もわからなくなってて
 ただ自分の両親への遺書とあたしのお父さんへの遺書とだけが
 残されてたんだって。その後一生懸命に探したけれど結局見つからないままで。」
「俺は物心ついた時にはもう養父母の所に行ってたんだもんな。
 わかるはずがないよなぁ。」
「お爺ちゃんもお父さんも長い時間をかけて探したらしいんだけど
 その人のご両親も何もわからないままでただお墓だけが岐阜高山の
 ご実家にあるって聞いた。
 その後のことは誠さんだっていろいろとあって
 知っている自分の歴史だよね。」
「お前それをいつから?」
「去年。お爺ちゃんが食事に誘った時にさ、誠さんお店の前にいたろ?
 お爺ちゃんが車で迎えに来ててそれに乗り込むときに
 誠さんがあたしを見送ってくれて。その時お爺ちゃんが口にした。」
「ちゃんと話したいって思わない?お爺ちゃんと。
 でも恨んでるだろうなとお爺ちゃんは言ってた。」
「いや、恨むとかじゃなくってさ。俺は自分に肉親がいたこと自体が・・・・。」
「そっか。いつかお爺ちゃんと一緒に話をしないと・・・・・だな。」
「でもなんでその話を今なの?」
「いまさ、ここには家族しかいないよな。」
「だね。お父さんとお母さんと弓弦と誠さん。
 誠さんは血のつながった弓弦のお兄ちゃんだもんね。」
「兄さんと言われるとちょっとなんだか戸惑うが。」
「でね。この一つが重要。」
「なんだい、弓弦。」









「伯父ぃ。伯母ぁ。そしてひかり。
 あたしこの家を出る。せっかく離れを使わせてもらっているのに
 ごめんね。でもね・・・・。」
「でもなんだい。」
「そうだ、でもなんなのよ。」
「あたし・・・・・・・。」

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