愚図

魔法のことば


大丈夫って言ったでしょ、と言われて安心しきって息を吐く。
こんな風に過ごす週末にだけ助けられているのだということを一体どうしたら本当のまま君に伝えられるのか、私はいつも頭を抱えている。
君は伝わなくても全く構わないみたいに微笑んで私を見つめる。


ーーーーー

ベッドの中で抱き合うことに同じだけ貪欲でいてくれること。
いつだってあのひととの十年前を、君を使って繰り返していること。

私を見つめる君の目は私を見ているのに、私は一体何を見ているんだろうか。
綺麗な身体に見惚れながら堪らなくなって、嗚咽してしまいそうになる。
線を引く私に君は擦り寄る。


死にたがる度に悲しい顔をして、泣いちゃう、と言う君の可愛い顔をぐしゃぐしゃにぶん殴って脳姦されたい。
首を吊られた人間に随分酷なことだ。
私の首を絞められる?と聞くと小さな声で嫌がる。
私は頭がおかしいので、首を絞められながら犯されないと興奮できません。
私は頭がおかしいので。
君は静かに頭を撫でる。


ーーーーー

湯船の中で揺れるお湯の色、身体を寄せて体育座りをして、首のうしろにキスを受ける。
震えて粟立つ。
ゆらゆら見える君の手足が温かくなることに安心する。
目を閉じて私の胸元に回された腕を撫ぜる。
なんだってするから、と思う。


名前を呼んで見つめてキスをして好きだよ、まるで本当に大切にされているみたいな愛されているみたいなセックスをして、もう一度したい?と聞かれる。したい、と思う私は小さな頭を触りながらもう寝なさい、と言う。
ゼロ距離で眠る夜。
朝まで眠れる君の隣。
目を覚ましたとき、意識なんかなくたって必ず触れていてくれる安全な君の、規則的な、健やかな呼吸と長い睫毛。
なんだってするから、君の傍にいたい。
いつか君が大人になるまでのモラトリアムだと、言い聞かせているのは君に?それとも、私に?


ーーーーー

酔っ払ってふわふわしている貴方は可愛い。
ふわふわ?
君が好きだ。
朝起きてから夜眠るまで君のことを考えているくらいに君が好きだ。
あのひとのことを考えなくちゃ考えなくちゃ考えなくちゃと思うくらいに君が好きだ。
君の話す言葉の一字一句、どうか一生忘れてしまわないようにと願ってやまないくらいに君が好きだ。
ずっと一緒にいたいと思ってしまうくらいに君が好きだ。
一体いつまで?
あのひととのことは恋なんかじゃない。
私は全くあのひとに支配されている。
soirの香り。


ーーーーー

眠りから覚めたあとの微睡みのなかで擦り寄って始まるセックスは満たされていて、幸福だ。
確かめるように揺さぶられながら、耳たぶや頬を触っておでこを合わせたときの君の体温をずっとずっと思い出せますようにと思った。
いつかあのひとと閉じ込められたプルキニエの夕方、アーモンド色の瞳や7:3のカフェ・オ・レや同じ部屋でそれぞれ読書をしながら過ごしたあの部屋のあの時間を、思い出せるよう願ったときのように。




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