愚図

発散する


泳いでいた腕が肩に回されるようになること。
膝の上に置かれるようになること。
頭を撫でておでこにキスをされること。
このひとはいつも私に、落ち着いた?と聞く。
まるで本当に大切にされているみたいな気持ちになってしまう、と言うと、分かるよ、と言われる。
私に馴染んできたと言う。
馴染んでしまわないようにしたいの、と言うと、うん、と言われる。
長く楽しんでというこのひとは、捨てられたくないと思っているのだろうか。
すぐに飽きてしまうようならいつまでも指輪なんて大切にしないデショ。
私の本質をいつでも見抜こうとする。
興味を持っているのだと。

宙ぶらりんでいたがっていいとこ取りだけしていたい気持ちは、向き合うことをしたくないということなのか悲しい気持ちにならないように慈しみだけを頼りに傍にいたいということなのか、どちらだろうか。
それとも、どちらかではなくて、どちらもかもしれない。

君が隣にいることの幸せを噛みしめる。
匂いを嗅いで触って確かめていたい。
トランキライザーだ。
瞳孔をハートマークにしながら舌や歯を舐められて悦んでいると、君はこれが好きなんだねと言われる。
違うよ、君のキスが好きなんだよ。
君のその肩を抱きながら寝かしつけるみたいなところが好きなんだよ。
ご奉仕精神なの?
愛しているということを、けれど伝える事はできない。


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