物語全体のあらすじ


 時は明治の頃。西の海に浮かぶ、人々にも時代にも忘れ去られたような奇妙な島・四方島よもとうに一人の新米警察官がやって来る。彼の名は琴坂啓介ことさかけいすけ。その任務はこの島で行われていると噂される密輸の調査だった。


 夜にしか船が来ない港、増築され続ける遊郭、人と妖が混ざり合う迷路のような街。島の異様さに戸惑いつつも、啓介はやくざ崩れの地元の巡査・大上銀次おおがみぎんじと共に調査を開始する。銀次は手始めに薬を扱う『青蘭堂』の主人、金浦陸かねうらりくに啓介を引き合わせる。啓介は陸に、「あなたは本来ならばここにいるはずはない」と不思議なことを言われる。


 いまいちやる気のない銀次に発破をかけながら真面目に調査に勤しむ啓介。しかし毎回、人魚のミイラの蘇りや異国船員の死体消失など奇妙な事件に巻き込まれてしまう。その裏には陸と因縁があるらしい『空苦裡屋からくりや』と呼ばれる謎の男の存在が見え隠れしていた。


 やがて啓介は、水死した妹・弥津みつの幻を見るようになる。最初は夜の港から音もなく出て行く舟に乗っていた。その後も、事件に巻き込まれる度に弥津が見えるため、ノイローゼではないかと思い始める。そんな時、悩みを打ち明けた陸に「もし、本当に弥津がいたらどうしたいか」と聞かれてはっとする。


 実は弥津の水死は自殺で、啓介はその原因が自分であることを知っていた。弥津と啓介は母親違いの兄妹だが互いのことを知らずに育ち、出会った時に恋仲となってしまっていたのだ。血が繋がっていることを知った啓介は、折しも縁談が来ていた弥津に何も言わずに姿を消す。そして、弥津は婚礼の直前に入水自殺をしたのだった。


 妹を愛してしまった罪の意識に苛まれながら、奇妙な島で警官としての仕事を続ける啓介。その中で、啓介はここに住む人々が皆、何らかの罪を背負っていることを知る。


 死を目前にしても作品を作りたいと願う刺青師に体を提供した銀次。共に戦った仲間の骨を盗んだ僧侶。美しいままでいたいと願う妹遊女に、花埋病はなうずみのやまいという死病を移した上臈。彼らは人の道に外れた行いをした過去がある。しかし、人の情に動かされたゆえのその行動は本当に罪なのだろうか。彼らの姿を見て、啓介は自分の本当の罪は、弥津への想いを否定したことではないかと考えるようになる。

 ある夜、啓介は最初に弥津の幻を見た港へと足を運ぶ。音もなく港を離れる舟に再び弥津の姿を認めた啓介は大声でその名を呼ぶ。こちらを見た女の顔は、間違いなく弥津だった。