世界に奇病が蔓延していた。『若返り病』である。これは、余命幾ばくもない老人のみがかかる病。ある日、突然、杖をついていた老人が二十歳前後まで若返るという現象が確認された。そして、若返り病を患った者は一ヶ月以内に確実な死が訪れる。これは、そんな奇病にかかった老人たちが紫苑園で過ごす最期の三十日間の物語…

               物語全体のあらすじ



 世界に奇病が蔓延していた。『若返り病』である。これは、余命幾ばくもない老人のみがかかる病。ある日、突然、杖をついていた老人が二十歳前後まで若返るという現象が確認された。そして、若返り病を患った者は一ヶ月以内に確実な死が訪れる。これは、そんな奇病にかかった老人たちが紫苑園で過ごす最期の三十日間の物語である。


 子糸井潮美は、二十五歳だてらにベテランの終末介護士である。これまで何十人もの若返り病にかかった入所者たちを見送ってきた。


 紫苑園で行われるのはターミナルケアである。この施設にやってきた入所者は一ヶ月以内に旅立つ運命にある。潮美の役割は死が迫っている入所者たちをその日まで可能な限りケアすること。そして、旅立ちの日には涙を見せず笑顔で送り出すこと。主な仕事はこの二つのみだった。


 その日、潮美が担当することになったのは音羽雄一郎九十歳。しかし、若返り病にかかっている為に見た目は二十五歳程度。柔和な笑顔が印象的な穏やかな性格の持ち主だった。


 若返り病という病名であるが、若返るのは見た目だけ。身体機能の低下が改善されることはない。雄一郎はほぼ全ての生活行動において介護士の介助が必要であった。


 潮美に手助けされながら、紙オムツを穿いたり入浴の介助をしてもらう。食事にも介助が必要。移動は車椅子で。


 ある日、雄一郎は潮美に本音を吐露する。死ぬのは怖くない。だが、見た目だけ若返り、他全ては死を間近にしただけの無力な老人であることが酷く辛い、と。一度でいい。最期に一度だけ誰の介助も必要とせず日常生活が送りたかった。


 すると、潮美はある提案を持ち掛ける。なら、頑張って特訓しましょう、と。


 それから、二人の特訓が始まる。なんとか介助無しで用を足すことも食事をすることも出来るようになった。しかし、それだけで全身の力を使い切ってしまった。でも、満足だ、と雄一郎は子供の様にはしゃぎ笑った。


 車椅子で庭を散策することに。そこで潮美は庭に咲いているクチナシの花を見て云った。


「私、あの花が好きなんです。花言葉は『喜びを運ぶ』。見てるだけで嬉しくなっちゃうんです」と。


 翌朝、事件が起こる。雄一郎が庭で冷たくなって発見されたのだ。その手にはクチナシの花が握られていた。


 潮美はハッとなる。まさか私にプレゼントする為に?


 ありがとう。そしてすみません。潮美は心の裡で呟き、笑顔で雄一郎に別れの言葉を告げるのであった。