陽佳国第三皇子の李 成珀(り せいはく)は、年の離れた優秀な二人の兄を持ち、皇帝である父からも甘やかされて育った。まさに傍若無人と呼ぶにふさわしい皇子であった。
 毎日行われる公務にも顔を出さずに絶好のサボり場所を探していると、成珀は陰湿じみた書庫へとたどり着く。そこで彼の運命を変える女性と出会…

 陽佳国第三皇子の李 成珀(り せいはく)は、年の離れた優秀な二人の兄を持ち、皇帝である父からも甘やかされて育った。まさに傍若無人と呼ぶにふさわしい皇子であった。

 毎日行われる公務にも顔を出さずに絶好のサボり場所を探していると、成珀は陰湿じみた書庫へとたどり着く。そこで彼の運命を変える女性と出会う。


 彼女の名前は王 楓蓬(おう ふうほう)。成珀より二つ年上の陽佳国で唯一の女性文官であった。

 楓蓬は病弱な父の代わりに秘書省と言う宮城の書庫を取り扱う部署の末端として働いていた。第三皇子だと身分を明かしても素っ気ない態度の楓蓬に、成珀は少しずつ興味を抱いていく。


 ある日、足しげく書庫に通う成珀は長い前髪のせいで前方不注意に陥った楓蓬を助けた。

「いっそ、前髪を横に流してみるのはどうだ?」

 出来心で楓蓬の前髪を上げた成珀は、初めて見た楓蓬の素顔――恥じらいを含んだ表情に心を奪われてしまう。初めての感情をどう扱えばよいかわからず、読み終わることのない書物を盾に仕事をこなす楓蓬を横目で見る毎日を送っていた。


 悶々と考えることに疲れた成珀は、以前から何かあれば相談をしていた姉代わりの楊妃(よう ひ)に尋ねる。

「あいつを見ていると心の臓がうるさいんだよ。……俺は病気か?」

 もじもじ・うじうじとする成珀に、呆れた楊妃の言葉が青天の霹靂を落とす。

「あんた、楓蓬ちゃんに惚れたんじゃないの?」

 自覚してしまうと楓蓬の顔も見れず、挙動不審で怪しまれる始末。手が触れただけで顔が熱くなり、触れたところを何度も撫でてしまう。


 その前髪の下に隠れた顔をもう一度見たい! 願わくばまた人間らしい表情を見せてほしい!


 すっかり傍若無人だった面影の無い成珀に、「楓蓬ちゃんに手を出したら殺す」と忠告していた楊妃さえも応援する羽目に。


 はたして成珀は成人の儀までに楓蓬を後宮に迎えることが出来るのか。

 初恋を成就すべく、一つの物語が始まろうとしていた――……。