IT企業で働く笹田沙良(ささだ さら)は、社会人になってからというもの常に疲労困憊の日々を送っていた。後出しされる仕事内容に板挟みな人間関係。仕事に押し流されてすっかり彩りを無くした私生活。愚痴を言おうにも数少ない友人は次々と結婚して会い辛くなってしまっているし、SNSを眺めても自分が惨めに思えて…

全体のあらすじ


楽しいことなんて金曜日の夕飯ぐらいだった。会社を出たその足で電車に飛び乗って、スーパーで好きなお惣菜を買って帰る。どうせ誰もこないから、玄関先に転がったパンプスはそのままで大丈夫。カバンをソファに投げ込んだらテレビをつけて手洗いうがい。ここでテレビをつけないと、どうもスマホをいじって動けなくなってしまう。夕飯はレンジと電気ケトルがあれば大丈夫。適当なバラエティを眺めつつ箸を進めて開放感と安堵感にしばし酔いしれて、面倒な風呂を乗り越えてベッドになだれ込み、全部を預ける姿勢でSNSを眺める。対して興味もない情報を次々眺めているうちに日付を越えそうになり、慌てて電気を消す。

ごちゃごちゃと騒がしい脳内が睡魔によって鎮圧されていく。眠りにつく前の脳内会議も、もう随分と繰り返した気がする。

 IT企業で働く笹田沙良(ささだ さら)は、社会人になってからというもの常に疲労困憊の日々を送っていた。後出しされる仕事内容に板挟みな人間関係。仕事に押し流されてすっかり彩りを無くした私生活。愚痴を言おうにも数少ない友人は次々と結婚して会い辛くなってしまっているし、SNSを眺めても自分が惨めに思えてしまい億劫になるだけ。

「まさかこんな未来が待っているなんてなぁ…」

そんな想いがつきまとい始めた12月だった。

いつものように食料品の買い出しに向かうと、駅前でクリスマスマーケットが開かれていた。「そんな時期か、自分には関係ないけど」と通り過ぎようとした瞬間、ある一角が目に留まる。そこには、数々のワインが販売されていた。

自分のクリスマスプレゼントだと言い聞かせてそれを購入した沙良は、家に帰りさっそくワインの栓を抜く。すると、漂う香りから鮮烈な眠気が襲ってきた。今にも閉じそうな瞼の隙間で、牙の生えた男が笑う顔が見える。

「幾年と待った。肉付きは悪いが、オードブルなら悪くない」

男の牙が手首に突き刺さる。鋭い痛みが走ったその瞬間、男が沙良に向かって言い放つ。


「…まずい」

「は?」

「どういう健康状態なんだ!?久方ぶりの食事だというのに…どうしてくれるんだ!人間!!」


沙良の元に突然現れた吸血鬼。

日々の疲労やストレスで弱った沙良の体を改善して最高の食材とするため、世話焼きな同居生活が始まる。