特時の喫茶店

作者燈夜

 「人の願いを聞く店」があると云う。
 其れは小さな喫茶店で、店主と従業員一名が働く。店内には様々な時を刻む時計が飾られていて、最も目を惹くのはカウンターの奥にある煌めく砂時計。其の喫茶店は異なる時計が時を刻む、『特時の喫茶店』───。
 願いを聞いて貰うために訪れる客人を店主・時任と従業員・ヨシ…

 「人の願いを聞く店」があると云う。

 其れは小さな喫茶店で、店主と従業員一名が働く。店内には様々な時を刻む時計が飾られていて、最も目を惹くのはカウンターの奥にある煌めく砂時計。訪れた客の口伝えによって密かに広まる其の喫茶店には七つの規則ルールがある。


壱.従業員の名前を音読みしない。

弐.店主の名前を聞かない。

参.他の客人の詮索をしない。

肆.願いを叶えることは出来ません。

伍.録音機、撮影機のご使用は出来ません。

陸.店内の時計に触らない。

漆.店主を外へ連れ出さない。


 其の喫茶店は異なる時計が時を刻む。店主と従業員の二人だけの其処は『特時の喫茶店』───。

 願いを聞いて貰うために訪れる客人を店主・時任と従業員・ヨシヤ、そして数多の時計が迎える。

 今回の客人は三人。


 一人目は「当たり前の日常を取り戻したい人」

 彼女はある男のせいで平和な日常が一転し、家族、恋人、友人、同僚から軽蔑され除け者扱いをされてしまう。

 ある日街を歩いていると黒衣の人間に話しかけられる。蒼い髪に蒼い瞳の其の人は、男にも見えるし女にも見える不思議な人だった。警戒を露にする彼女に其の人は「願いを聞く店」の話をする。抱えきれない思いや願望を吐き出すにはうってつけの場所。美味しい飲み物を飲みながら見目の良い店主と従業員に願いを聞いて貰えばと笑う。赤外線で送られた写真は黒檀の掛け時計。聞けば其れが其の店の扉だと云う。

 何故其の店の話をしたのかと聞けば、其の人は「  」と答えて何処かに行ってしまった。其の人が何と答えたのか不思議と思い出せないが、この耐え難い生活から抜け出せるのならと彼女は特時の喫茶店を訪れることにした。


 二人目は「恋人の傍にいきたい人」

 二年前に愛する人が自害し一人残されてしまった彼女。一度は後を追おうとするがあと一歩が踏み出せずに毎日逃げ出したい程苦しい気持ちを抱えながらも、生きている。

 何処か遠くに行きたくなって休日の朝早くに電車へ乗って金沢まで行く。恋人が亡くなったばかりの時、ある占い師に「白山神社に行ってみなさい」と云われたのを思い出したからだった。電車に乗って四時間。只管歩き、参拝をした後は気が抜けてしまい神社近くの茶屋を訪れた。其の茶屋で相席になった人から「人の願いを聞く店」の話を聞き特時の喫茶店を訪れたのだった。


 三人目は「幸せな思い出だけを残したい人」

 ある人物のせいで大切な人を失った人。日が経つに連れて抱えきれない苦しみが憎悪となり、復讐を決意する。其の人物、家族、関係者の情報を徹底的に浚い、集め、復讐の時期を伺っていた頃に大学時代の知人に会い「人の願いを聞く店」を教えてもらう。知人は「其の店をある女性に教えた。彼女は最後は幸せになったそうだよ。君があの店を訪れて良かったと思えたらもう一人にも紹介しようと思うんだ」と云って去っていった。自分にとっての幸せは記憶の中だけにあるが、もし復讐の前に少しでも心が軽くなるのならと特時の喫茶店を訪れることにした。


 第三者によって齎される違和感と恐怖。其れは幸せな夢を無理やり壊されるようで。そんなヨシヤを時任は温かな眼差しで見守る。

 三人の客人の願いの先にあるものは。

 特時の喫茶店とは。

 本当の幸せとは。