【シナリオ大賞用の作品です】

貴族の屋敷に囚われているエメリナは、『歌に魔法が宿る』と言い伝えられる人魚の生き残り。しかし彼女の歌は水中で泡となるため、人間の耳に届く事は無かった。

ある日、エメリナは貴族の屋敷に忍び込んだ男・ジゼの持つ鏡の中に閉じ込められ、外へと連れ出される事になる。

人魚…

【あらすじ】


人魚の歌には魔法が宿る──そんな言い伝えを信じる人間に捕まり、生まれてまもない頃から貴族の屋敷の地下に囚われている人魚・エメリナは、絵画の中に描かれる広い世界への憧れを抱いていた。彼女は水槽の中から出る事が出来ず、いつも同じ場所で歌を歌うだけ。その歌はすぐに水中で泡になってしまうため、彼女の歌声が人間の耳に届く事はない。


そんなある日、エメリナは貴族の屋敷に忍び込んだ男・ジゼの持つ魔法の鏡〈魔水鏡スペクルム〉の中に閉じ込められ、そのまま外へと連れ出されてしまう。

ジゼは人魚を売って金にするつもりだったが、鏡の奥へと隠れてしまったエメリナが一切姿を見せないため、誰もその存在を信じてくれず全く売れなかった。


彼女を売る事を諦めたジゼは、渋々エメリナと共に夜を迎える。地上では声が出ず、人肌に触れると火傷してしまう肌を持つエメリナ。互いの意思を伝え合う手段がなく途方に暮れるばかりの二人だったが、やがて彼女がこぼした泡を小瓶に閉じ込めれば、その声が耳に届く事に気が付く。


小瓶に泡を詰めてやり取りする事で、ようやく互いの言葉を伝え合った二人。彼らは小瓶の中のあぶくを通して徐々に互いの事を知り、心の距離を縮めていくのだった。


しかし後日、元々エメリナを屋敷の地下に閉じ込めていた貴族の男・ドビーが彼女を取り戻しにやってくる。彼に雇われた賊に襲われ、深手を負いながらも鏡を守って必死に逃げるジゼ。「私を置いて逃げて」と訴えるエメリナだが、小瓶に詰めた泡が無ければ彼女の声はジゼまで届かない。


ついに二人は賊に追い詰められ、ジゼは致命傷を受けて倒れる。しかし彼が鏡を落とした瞬間、彼女を閉じ込めていた鏡面が割れ、そこから大量の水が放出された。

溢れた水が賊を飲み込んで押し流す中、意識のないジゼを抱き締めたエメリナは魔法の歌を込めた泡と共に彼に口付け、傷を癒して地上へと戻す。


意識の戻ったジゼが顔を上げると、目の前には深い火傷を負ったエメリナの姿が。涙を流して彼女へと手を伸ばすジゼを残し、エメリナは眠るように水の中へと沈んでしまったのだった。



──それから十年。エメラルド色に色付く湖のほとりでは、釣り糸の先に小瓶を結んで水に沈める男の影が一つ。


彼の持つ小瓶の中からは、今日も美しい人魚の歌声が聴こえるという。