物語全体のあらすじ



花に戯るる蜂蝶の 恋か恨かうつつ世の 【土井晩翠 『天地有情』 鷲より】


 大正とも昭和ともつかぬ頃、どことも知れぬ郊外に、ポツンとそびえた全寮制の森番学園。そこで野朝草牙ノアサソウガは、バンカラに身を包むも、少女のような自身の容姿の頼りなさ、同じく頼りない性格にコンプレックスを抱いていた。そんな中いつものように厄介の押しつけに遭い、学園はなれの曰く付きである六角形の建物、通称”魔女の養蜂場”に足を踏み入れた。


 広がる暗闇から突如、一心に光を浴びる奇妙にも美しい庭園を見つけた草牙は、中心に座す背丈よりも大きな花の蕾を見とめ、その存在に驚きつつも、不思議と近づく歩みを止められず、触れると瞬間に花は開き、その中心には金色の糸で包まれた繭があった。

それに触れた瞬間、草牙は鋭い痛みを覚えるとともに、糸はみるみるとその輝きを失い、ほどかれてゆき気づけば、暗闇の如き黒髪の女へと変貌した。

 その女はおチョウと名乗り、「ありがとうお姫様」と草牙へ言った。それを不自然に感じた草牙は、体を確認すると女に成っていた。


 お蝶は”匂い”がどうのと言って建物を出て行き、草牙は変化した体に戸惑いを隠せないままに慌ててその後をついていく。お蝶は校舎の中庭に物憂げに黄昏る一人の少女を見とめ、「あの女の残滓、”残り香”を感じるわ」と話す。「あの女?」と草牙が口にすると、”魔女”と言い、いきなり草牙に口づけした。

 すると、お蝶の姿はあの繭の姿のときのような金色の髪に変化し、お蝶だった女は「わしは天泣のおハチじゃ」と名乗った。身体変化だけでなく、人格までもがお蝶とは異なる様子のその女は、草牙を強引に引き寄せ、あそこをまさぐり、「本当に男じゃったか」と言った。そうして草牙はまた体を確認すると、元に戻っていることに気づいた。


 パニックに陥る草牙をよそに、お蜂と名乗る女は、中庭の少女を獲物を狙うような目で見ていた。

「彼奴には”蜜”があり、それは欲望が満たされるときに熟し、摂ることができる。”残り香”を追い、”蜜”を集めてゆくことが、この状況をもたらした魔女へと至る道じゃ」とお蜂は言う。そして魔女曰くこの状況は、”ハネムーン”なのだと。

 そうして草牙に無理やり少女に関する情報を集めさせ、少女の願いを把握し、接近してゆき、ついには彼女の真の望みを知り、それを満たした後に口づけ、そして同時に手から針を出し、刺した。少女が眠るように倒れた後、フラフラと草牙へと近づき、少女としていたよりも情熱的に口づけをし、そして最後には刺した。草牙は覚えのある痛みに気づき、お蜂がお蝶へと変化する様子を見、自身の体が再び女に成ってしまったことに気づいた。お蝶は大きく息を吸い込み、まだ”匂い”が沢山すると言う。

 また女に成った草牙は、魔女へと至るために辿る、”花の少女たち”と目の前で不敵に笑うこの女(たち)との逢瀬、”ハネムーン”に巻き込まれることを確信するのであった。