この研究所には秘密がある。奥に隠された子供部屋からは少女の笑い声と機械音。彼女の世界にいるのはロボットだけ。それだけで良かったのに。
ロボットに育てられた少女アマンダはある日、一緒に暮らしてきたロボットのエアと離れ離れの生活を強いられる。初めて踏み出した外の世界で、彼女は何を想うのか。

少し先の未来。科学の進歩により、日常は街の至る所でロボットを見かける風景へと変化していった。道の清掃をするもの、料理を振る舞うもの、中には噺家として活躍するものまで。ロボットにまで職があてがわれるようになった現代、開発の筆頭となる「Pulse研究室」は世界的にその名を轟かせていた。

 高度な技術にブランド力ある名前。それに、託児所やカフェスペース、娯楽室まで用意されたオフィスは、就活生の憧れの的だ。


しかし、明るくスタイリッシュなその建物の中に、一角だけ限られた人間しか入ることのできないスペースがあった。研究者たちは何重にもロックされた扉の先をあれこれ想像し、「猛獣がいる」「禁忌の実験を行っている」といった噂がまことしやかに囁かれた。

しかし、現実は違う。重厚な扉を抜けた先にあるものは鉄格子でも実験用具でもなく、ごくごく普通の子供部屋であった。少し異常な点を挙げるとするならば、キッチン、リビング、トイレ、バスルームまで完備ということだ。まるで、その部屋から一歩も出ずとも生きていけるような、そんな施設であった。その部屋で暮らす少女アマンダは、世話係のロボットのエアと仲睦まじく暮らしていた。エアは食事や入浴の世話をする他に、遊び相手になったり、勉強を教えたり、眠るまで側で見守ったりと、家族のような不思議な絆をアマンダと築いていた。アマンダが12才になるまでは。

 ある日、いつものようにエアが起こしに来ないことを不思議に思ったアマンダがキッチンに足を運ぶと、そこにはぐったりと床に座り込んで動かないエアの姿があった。アマンダは必死にエアの名前を呼ぶが、返事は一度も帰ってこない。アマンダが泣きながら小さく「助けて」とつぶやいたその時、ずっと閉められていた扉が開かれた。数人の男女が白衣をはためかせながら部屋に押し入り、エアを部屋の外へ運び出した。止めようと必死に白衣の裾を掴み抵抗するアマンダの両手を優しく包み、男は諭すような口ぶりで非情な現実を突きつける。エアが居ない日々が始まる。