夜行列車が行き着く先

作者irony

記憶がない青年は、夜行列車に気がつくと一人乗車していた。行き先も不明の列車に揺られ、自分が何者かもわからない不安に押し潰されそうになるが、そのとき一人の女性が相席してきた。
初対面のはずだが、彼女の面影はどこか懐かしい。彼女と会話を重ねるうちに、彼は少しずつ自分の閉ざされた記憶をこじ開けようとす…

 




気がつけば見知らぬ列車の車内にいる。


ここはどこなのだろう。




「お隣、いいかしら」


見知らぬ若い女性が、列車の向かい合う座席に腰を下ろす。

妙だ。他にも空いている席はたくさんあるのに。



この列車は何処へ向かうのだろう。

動かない左腕を擦りながら、先の見えない暗闇の深淵へ車輪を走らせる列車の行方を案じていた。