隠したいものが溢れて爆発する。そんな極限状態に近いところを彼は独り彷徨っていた。曖昧さだったり矛盾だったり。目の前の泡を眺める虚ろな瞳に綺麗な光が差し込む瞬間まで見届けられて、読後の今、静かな開放感に浸っています。

 どうしようもない環境から脱却したいような、さして困っていないような。けれどそれは決して良いものではなくて、自分はどうすべきなのか、自分の存在価値を迷い、惑い、途方に暮れる。青年から大人になる時期ならではの葛藤と無気力感が繊細かつ緻密に描かれていて、思わず息を呑みました。しかもそれは彼だけが特別とかではなく、親近感が湧くというか、身近に感じられるというところが、この作品の見どころのように思えます。

 理由や意味なんて無くて良い。そんな新たな価値観に触れられて、正直私も驚いてしまって。でも確かに、如何に楽に考えるか、如何に心の枷を無くすかを考えた時、あまり深く思考を巡らせない、ということも一つの在り方なのかな、なんて感じました。期待することを諦めるわけでもなく、ただ、ここに存在しているだけで良い、という温かいメッセージが詰まっているような気もして、ぼんやり過ごすことを否定するのではなく、そんな自分を受け入れた上で、自分は何がしたいのか、一つずつ見つけてみるのも悪くはないよな、なんて触発され、新たな道が開けた気がします。

 示唆に富んだ本作品は生きる、という朧気な言葉を突き詰めていて、その最終形態が優柔不断とかではなく、ただ、水のように溶け込む柔軟さだったのかもしれないな、と改めて感じました。彼が意識せずとも自然に息をつむいでくれたら良いな、と願っています。

 まだ何にでもなれる。特に気にすることはない。ゆっくり歩めば良い。そんな温かさが美文からひしひしと伝わってきました。この脆そうで強い灯りが誰かにも届いてくれますように。

 素敵な作品をありがとうございました