駆け落ちは夜汽車に乗って【完】

作者三月

思い出す。恋におちた瞬間を。夕暮れの色を、番号をなぞりこぼれた涙を、日曜の光を、ゾウの瞳を、クラクションの音を、シーツの赤を、泣き顔を、笑顔を、泣き声を、笑い声を、穂花を抱き上げたつい数時間前を、





生まれてはじめて惚れた女は育ちが良いのにちょっと頭がわいていて、いつも俺の想像の斜め上をいくどころか宇宙まで飛んでって瞬く星みたいなことを言う。




一緒に逃げて


あの男のものになる前に




その星ひとつ守るためなら俺ひとりの人生なんて幾つでも投げ売ってやるとか、そんなこと思うくらいには俺の頭もわいていて、だから、選んだ駆け落ちだった。








2021.02.11