「早く逃げて」
私は彼女の手を、握ったーー

第五人格短編小説コンテスト
『Identity V 第五人格』の世界に迷い込んできた「私」
をテーマとした二次創作作品です。

サバイバー日記ぐらいのホラー表現あり。
第五人格の最初の4人のサバイバーの日記を読んでいると、より楽しめます。



未練はないのかと聞かれれば、はっきりとは答えられない。

楽しみよりも苦しみのほうが勝った、ただそれだけだから私の決断は責められるかもしれない。

迷惑をかけるという人もいた。

だけどそれよりも感情が勝っただけだ、自分の決定は自分のもの、誰かに左右されたくはない……最後だけは。

できるだけ苦しみたくはないけれど、上手い方法はわからない。

屋上の端から一歩、足を踏み出そうとして、ふっと意識が切れる。

落ちていくーー




「あら……お目覚めかしら」



目を覚ませば、看護師のような女性がそばにいた、ここは病院だろうか。

私は失敗したのだろうか。

深くため息をついて、上体を起こそうとする。



「無理しなくていいわよ。気絶していたみたいだけど……原因は分かるかしら」

「はい……でも……」



言いたくはない。

優しげな瞳で女性は私を見ている。



「そう、分かったわ。気が向いたら教えて頂戴。申し遅れたわね、私はエミリー・ダイアー。こんな格好だけれど……医師よ」

「私は……すいません、名前、覚えてません」

「大丈夫よ。思い出せたらでいいのよ」



何を思って、何故飛び降りようとしたのか、そこまでは鮮明だが、後は靄がかかったように記憶が曖昧だ。

そういえばエミリーは……かなり不思議な服だ。

ナース服でもこんな形は見たことないけれど……



「暫くゆっくり休んでるといいわ。私は一階の102号室にいるから何かあったら呼んで頂戴」

「わかりました。ありがとうございます」



去っていくエミリーを目で追う。

改めてしっかりと周りを見てみると、病院ではなさそうだ。

なんだか古い洋館のような……不思議な場所だ。

彼女に保護されて、私はここまで来たのだろうか。

不思議なことは多いが、ここは空気が澄んでいて、あの窮屈な日常(とはいってもぼんやりとしか覚えていないが)と比べれば、居心地のよさを感じる。

深呼吸していると、ぱたんと扉が開かれ、思わず目を見開いた。



「貴方が新しいサバイバーさんなの?」



扉の影からひょっこり出てきたのは、麦わら帽子を被った年齢不詳な女の子。

緑色のきらめく瞳でこちらを興味津々に見ている。



「私はエマなの! 庭師をやっているわ! お怪我は大丈夫なの? あっ……具合悪かったらごめんなさいなの……」



ベッドの隣にちょこんと座ってこちらを見上げながら楽しげに喋っている、表情がころころ変わってとても可愛げがある。



「ううん、平気。エミリーさんには休んでてって言われたけど、どこも痛くないし……」

「よかったわ! やっぱりエミリーはすごいの~♪」



くるくるっと躍りながら、歌うように喋るエマ。

名前と容姿からして、二人とも外国の人だろうけど、不思議と意思疏通ができる。

何か嫌な考えが頭をよぎったが、それを遮るようにお腹が鳴り出す。



「あっ……」

「お腹、すいてるの? エマが食堂まで案内するの!」



エマは私の手をとって、私が起き上がるのをじっと待っている。

よいしょ、と片手で支えながらも床へ降りる。

服装は……病院の患者が着るような簡素な服に着替えさせられている。

きっとエミリーがしてくれたのだろう、と心の中で感謝した。



「それじゃあ、れっつごー、なの!」

「お願いします」



ぺこりと頭を下げれば、笑顔の素敵な彼女は私の手を引っ張って、意気揚々と食堂へ向かっていった。

はずだったのだが。