照柿《てりがき》の里長《りちょう》の息子、琉霞《るか》は、病に伏せた姉を助ける為、村の北外れにある鎮守の森に住んでいるという『くちなしの乙女』に会いに行く。
彼女はどんな高名な医者でも助けられなかった病人を快癒させたことがあるという。
半信半疑で森を訪れた琉霞のもとに現われたのは、同い年くらいの可…


「だから、梔子くちなしの花なんですね」

 

ふと、力を抜いたように琉霞るかが云った。

なにかと死と関連づけられる花だ。


『死人に口無し』そんな言葉がある。物言わぬ死者になら、どんな罪を着せたとしてもばれることは無い、という酷い言葉だ。

 しかし、もう一つ、こんな言葉もある。


『死人に朽ち無し』

 

たとえその身が朽ちようと、死者の想いも、記憶も、永遠に朽ちることは無い。

梔乃しのの抱える思いはきっと後者だ。儚くなった者たちも、決して見捨てはしまいと。

思いも記憶もどこまでも連れて行こうとしている。

琉霞は、今一度、目に映る景色を見回した。

こんな広い森に独りで。たった独りで、それでも凛然と咲いていた小さな花。

琉霞が見つけた、美しい花だ。