花筏に沈む恋とぬいぐるみ

作者蝶野ともえ

橋の上からクマのぬいぐるみが落とされた。
それを見た瞬間に、花(はな)は川に花筏が浮かぶ橋に飛び込んでいた。

橋からぬいぐるみを落としたのは、ぬいぐるみ作家の凛(りん)という男性だった。
それは花が探していた人物であった。

「四十九日の奇」が花と凛の出会いを生んだ。
ミステリアスな凛とぬいぐる…




   プロローグ






 『四十九日の奇』




 死後、四十九日間だけ現世に魂が留まる。

 その際、生きていた時に大切にしていたモノや心残りだったモノに魂が宿る事がある。

 そして、そのモノが動き、しゃべる事例も確認されている。



 その、四十九の奇があった場合、そのモノを燃やし供養しなければ、その魂がこの世に留まり、成仏できないと言われている。

 


 しかし、その限られた四十九日という時間を死者とその周りの人々は奇跡だとして大切にしていた。

 突然生を奪われた人は、大切な人へ愛や感謝を語る時間となり、病気や怪我で最後に安らかに過ごせなかった人々は、穏やかな時間の中で最後の生の世界を楽しむ。


 そして、残された人も死者へ伝えられなかった気持ちを伝えられる最後のチャンスが与えられるのだ。


 それは愛の言葉なのか、感謝なのか。恨み、妬み、憎しみなのか。



 それはその死者と生きる者との間でしかわからない。



 四十九日の時間は、奇跡時間。神様が与えてくれた慈悲として、与えられた魂は迷い、戸惑い、感謝しながら彷徨い、この世での最後の時間を過ごすのだった。