小学6年生の里香子には、親の離婚によって離れ離れになってしまった姉がいる。
それぞれの親に引き取られた時に2人は誰にも言えない秘密を持ったはずなのに。

 今から思うと、最初からなんか変やった。


 久しぶりに会うのに動揺しないお父さんとか、初めて会った割に、スッと馴染んでいった弟とか。


 でもそんなこと、わたしには分からへんかった。





「ホンマにふたごやったんや」

 そう言った理奈ちゃんは、その写真を、空に向かって掲げた。

「何してんの?」

「いや、CGちゃうんかなぁて」

「ちゃうわ」


 理奈ちゃんから、薄汚れたし写真を奪い取ると、机に伏せていたショルダーを手に取り教室から出て帰路に就く。それを見た理奈ちゃんは、追いかけるようにそれに続いた。



「ほんでずっとおるん?こっちのガッコウ、通うん?」

「知らん」


 夏休みが始まって、受験はしやんけど小4から行きだした学習塾の夏期講習が始まったその日、わたしは朝からソワソワするのが止まらへんかった。

 少しの期待と、どうしたら良いのか分からない気持ち。

 6年前に離れ離れになった双子の姉。嫌、ちゃうな、妹や。


「あ、そや、こないだの本、どやった?」

「本て、なに?」

「え?貸したやろ、アレ、今度ドラマになるやつ。コンビニで会ったとき、読みたいって言ってウチまで取りに来たやん里香子が」


 その時、理奈ちゃんは確かに、誰かとわたしをと間違えてたんや。


「わたしちゃうで、誰か、他の子ちゃうん?」

 そう言ったわたしに、理奈ちゃんは、少し困ったような、そして、寂しそうな目でわたしを見ていた。


「…そやな、わたしの勘違いやったかもしれん。ごめんな」

「ええよ」




 夏休みになったら、可奈子が来るよって、お父さんが言った。

 レーズンパンと牛乳がタップリのコーヒーと、イチゴがその日の朝ご飯で、ちょうどそのイチゴに練乳をかけてる時で、「え?は?」って言ったら、手元が狂って、指に練乳が垂れた。



「カナコってだれよ?」

「可奈子や、何や、里香子は自分のお姉ちゃんの名前も忘れたんかぁ?」

 シャツに着替えながら、父はそう言って笑った。



 忘れる訳ないやろ。わざと、聞いてんやん。






「なんて名前なん?」

 そう理奈ちゃんに問われ、「可奈子」と答える。


「カナコ。へぇ、可愛い名前やな」


 よう言うわ。自分の名前の方が、いっそう可愛いって思てんねやろ?顔見たらわかるわ。なんかすましよって、ムカつく。

 写真を奪い取るように受け取って、ショルダーバックの中に仕舞うた。


「これからは一緒に住むん?」

「知らん」

「え?じゃあ、単に遊びに来るんか?」

「知らんて」


 カーゴパンツのポケットから、鈴の付いたチャリンコのガキを取り出して刺すと、そのままケンケンで乗って、理奈の方を振り向かずに漕ぎ出した。


「わたしにも会わせてぇやぁ!」

 そう叫ぶ理奈の声に、だから知らんて!と左手を振り、立ち漕ぎのなり加速する。


 明日、会える。


 もう会えへんねんやと、思っとたのに____。







 二人が別れたのは幼稚園の時やったから、もう6年も前や、今では二人とも小学6年生。きっと可奈子は、私立のお嬢様中学とか、行くんやろか。

 わたしも一応、学習塾には通うわせてもろてるけど、それは近くの府立高校のヘンサチとやらが高いらしくって、自由なコウフウとやらで、制服もなくっておしゃれで、みんなが憧れてる高校やから、今のうちからベンキョウせな入れへんねんで!って理奈ちゃんが教えてくれて、それをお父さんに言ったら、なんや嬉しそうに、『ほな勉強しい』言うて通うわせてもろてる。お月謝が大変なんやろけど、お父さんもその高校行ってたらしいから、目指してくれたら嬉しいって、逆にエライ、プレッシャーかけられてもうたけど。ベンキョウは楽しい。今んところ。


 可奈子に会えるんやと思って、押し入れにしまってあった引っ越しの時に可奈子と交換したカンカンの中に、その写真は入ってあった。

 お揃いの黄色のワンピースを着て、麦わら帽子をかぶって、二つ括りにした飴玉くらいに飾りの付いたゴムだけが色違い。でもそんなもん無くてもわかる。

左目の下に、ホクロがあるのが可奈子や。


 泣き黒子って言うらしい。泣き虫は、可奈子。


 ほんで後から聞いた話では、お父さんとお母さんはカケオチってのをしたらしい。お爺ちゃんらに結婚を反対されて逃げて来たんやて。ちなみに、お爺ちゃんはお母さん方で、要するに、お母さんはお嬢様、やったみたいで。

 4人で仲良く暮らしてたのに、お爺ちゃんに見つかってしもて、跡取り(何のや?)で長女だけ連れて来いて。ほんで、私とは離れ離れになってしもた。


 そん時はよう分からんかったけど、むっちゃお金持ちやったらしい。そやから大きなお家にはお手伝いさんもおって、美味しいご飯もぎょうさん食べれて。お母さんを一人占めできる。

  

 そん時、里香子はむちゃくちゃ泣いた。お父さんのことは嫌いやなかったんやろうけど、お母さんと離れるのは嫌やって。泣いて泣いて、もう一生分の涙がこぼれ落ちたんやないかってくらいぎょうさん。そやから、もう二度と会えへんねやと思うてた。





 それから、お父さんと二人で今の家に引っ越して、お父さん配送の仕事に就いた。その仕事は時間がバラバラで、学童に行きながら、夜は一人になる事もあって、そんな時はどっかのシッターのオバちゃんが来たりもしてたけど、ごはんも不味いし、勝手にテレビ見よるし、イヤやって何回も言ったら、そのうち来んようになった。

 困ったなって言ってたお父さんは、会社に言うて、夜中の仕事を減らしてもろて、少しの間、家で出来る内職みたいなアルバイトもして、たまにそれを手伝ったりもした。

 ほんで小4の時に再婚したんや。新しいお母さんは、近所のスーパーのおばちゃんやってびっくりしたのを覚えてる。いつのまに!二人付き合うてたん?お父さんと一緒にスーパーに行くこともなんべんもあったけど、そう言えば、そんな時はおばちゃんは話しかけて来やへんで、一人ちゃうからやって思ててんけど。

 父子家庭になって、学校から帰って歩いて二分のそのスーパーに、一人で買い物に来てたわたしに優しくしてくれて、選んだ野菜がくたびれてた時、ちょっと待っててって新鮮のと交換してくれたり、レタスは芯を見るんやでぇとか、教えてくれたり。届かへん場所にある物を取ってくれたり。ものごっつ優しかって。

 ええか?と聞いてきた父さんに、嫌な訳ないやん!って泣いたんは覚えとる。新しいお母さんは、スーパーのずっとオカンみたいやった。


 でも、結婚してから半年くらいで、新しいお母さんは倒れてもうて呆気なく死んだ。多分、結婚した時には病気やったんや。気付くのが遅くて、お母さんは母子家庭やって、無理してたんやなって、死んでもおた時に、お父さんはそう言うてた。


 ほんで、結婚と同時にもれなく付いてきた、3つ下の、心太が残った。


 また父子家庭に戻ったんやけど、4が2になって、せっかくまた4になったのに、あっというまにまた減って、今度は3や。

 4って数字は縁起が悪いんやろか なんか、定着せんねぇ、なんて。



*  



 土曜日やのに、お父さんはお仕事やって出かけていった。昼過ぎには戻るから、夕方、駅まで、一緒に可奈子を迎えに行こか、て言い残して。


 シンタは昨日の晩から、ドキドキして眠れへんわって部屋に来て、ええよって言ってないのにわたしの布団に潜り込んだ。

 3年生にもなって血も繋がらん姉の布団に潜り込むのは、いささかどうしたもんかと思わないでもないけどな、お母さんが亡くなってもうてから、不安定になったシンタが、シスコンになるのもわからんでもなかった。

 わたしにふたごの姉妹がおることは、両親が結婚して姉弟になった時から話してあったけど、現実味がのうて、昨日、学習塾の帰りに、理奈ちゃんが会いたいって言うてたなぁって、可奈子の幼稚園の時に写真を見ながら、先にこれをシンタに見せといたった方が、ええやろかって思ったりもした。間違い探しみたいに、わかるやろか。





「可奈子に会う前に、ちょっとええやろか」

 お昼過ぎに帰ってきたお父さんが、わたしとシンタをダイニングに呼んで、話があると言った。


「心太は初めて会うんやけど、里香子のふたごのおねぇちゃんや。ほやから心太の、おねえちゃんでもある」

「うん」

「里香子は久しぶりやと思うけど、どうや、覚えてるか」

「うん、何となくやけど」

「そうか、ほんでな、言わなあかんのは、可奈子はちょっと、病気になってしもて」

「病気?なんの?」

 隣で、シンタがびくってしたのがわかった。シンタにとったら、病気って言ったら、お母さんのこと、思い出してしまうんちゃうんか。ちょっと考えたらわかるやろ。お父さん、デリカシーなさすぎ、やで。だから、隣に座ってるシンタの手をギュッて繋いであげた。


 「心が、ちょっとな。だから、夏休みやしな、里香子と心太に会いに来るんや。仲ようしたってな」


 ほな行こか、お父さんはそう言って、ダイニングの椅子を引いた。シンタがわたしの手を振り解き、お父さんにしがみつく。

 3年生やのに、未だ1年みたいにちっこいままで、たまに年長児とかに間違えられんのに、そんなんしたら、もっとやろ。





 病気って何やねん。

 何の、ために、譲ったと思てんねん……。




* 



 可奈子は駅に一人で突っ立っていた。約束の時間の30分も前に着いたはずやのに、そこには、ランドセルを背おった、痩せた少女が一人でおった。

  

 私もびっくりしたけど、お父さんの方がもっとびっくりして、その可奈子を見て大声で叫び、駆け寄って、抱きしめた。


 なんで?お金持ちのお爺ちゃん家に行ったんちゃうん?なんでこんな、ボロボロなん?

感動の再会のはずやったのに、それはそんなことはなくて、側から見ても、痩せ細ったその子は、一生懸命に笑おうとしとった。


「お母さんは?」

「え?」

「何?一人で来たん?どっから?お母さんが、連れて来るんやと思ってた」

「なんか、里香子、会いたかったんか?お母さんに?」

「そんなこと、言ってへんやん」


 そんなやりとりをお父さんとしてるのをぼうっとしてた可奈子は、一歩下がって、シンタが見とる。

 ホンマは駅前のファミレスでご飯食べて帰ろうって言っとったのに、とりあえず、先に家に帰って、それからにしよかってお父さんが言った。そやから、無言で家に戻って、可奈子が持って来てたのはランドセルだけで、その中に入っていたのは4年生の頃の教科書で、着替えもひとつもなかった。


 わたしが自分の判断でお風呂を沸かして、先に入るようにと可奈子に言うたのに首を横に振る。

 お父さんは部屋を出て、廊下の隅で、誰かに電話をかけ始めた。

 シンタが泣きそうな顔をして、部屋に入ろうかモジモジしてたから、おいでと言って前に座らせた。


「弟ができてん、名前はな、シンタ。心って字に太いって書くんやけど、ところてんとちゃうで、この子のお父さん。あ、本当の、お父さんが、おっちょこちょいやって付けてしもてんて」

「シンタ、こっちがわたしの双子のおねぇちゃんの可奈子」

 ペコリとお辞儀したシンタが、「なぁ、しゃべられへんの?」って呟いた。それ、わたしも気になってた。いや喋れるよ。でも黙ってんねやんね?


 駅にいた時から無表情やった可奈子が、ランドセルの中からノートを出してきて、筆箱を開けて、短くなった鉛筆で、ノートの切れ端に、〝りかこ〟って、ひらがなで書いた。


 それを、シンタが不思議そうに見てる。

 ランドセルの4年生の教科書。

 双子やのに、そうは見えないほど痩せ細ったカラダ。


 何なん?何で?





 可奈子が来ることのなった少し前、夜、遅い時間にトイレに起きたら、お父さんは台所で、薄明かりの中、誰かと電話をしとった。相手の声は聞こえへんかったけど、〝とりあえずどうにかする〟とか、〝その時はまた考えよう〟とか。誰と話しているんか分からへんかったけど、お父さんはちょっとだけ疲れてるようにも見えた。


 それから何回か一緒にお風呂に入ってわかったのは、可奈子のカラダにはあちこちに誰かに叩かれたようなアザや、引っ掻き傷のようなものがたくさんあった。どしたん?って聞いたら、可奈子は首を横に振り、俯いて悲しそうに目を伏せた。


 実は、可奈子と離れ離れになった後、少しの間、手紙のやりとりをしたことがある。月に2.3 度の割合で、お父さんに渡して、手紙を送ってもらった。その後、同じペースで返事が来ていたのが、1年ほどすると返事が来なくなり、2年生になった頃には返事は来なくなってもうた。

 それから、4年生で買ってもらったスマホのメッセージアプリのIDを書いて送った手紙を送ってもろたのに、は宛先不明で戻ってきてしもた。

 それから、お父さんから可奈子の話をされることはなく、新しくなった家庭で、少しずつ可奈子の存在はわたしの中からいなくなって行ったのだ。

 それでも父は、可奈子の居場所は分かってたようで、2年の月日が流れた。



 果たして、我が家にやってきた可奈子は、全く喋らず、父が言うには4年生に夏頃から、学校にも行っていないらしかった。


「はぁ?何でなん?」

「なぁなに?どう言うことなん?」うまく理解できないシンタがわたしにしがみ付く。


 それに、お父さんはなにも答えへんかった。




 そして、特になんも分からんまま、時だけが過ぎていった。

 何も喋らへん可奈子が、それでも少しだけ微笑むようになったんが、その時はものすごく、良かったんやと思ってた。



**




「ほんで?ずっと家にいてるん?」

「そうやで」

「なにしてんの?」

「本とか、読んどる。教科書とか?」

「は?教科書?何がおもろいん?」

 あれから思ったのは、学校に行ってなかった可奈子は、4年生でお勉強が止まってるんやないかってことやった。ほやから、去年使ってた学習塾のノートとか、教科書が気に入ったようで、家で、それこそ、シンタと一緒に勉強する姿を何度か見てた。

「暇なん?まだ喋られへんの?」

 当たり前なことを言う理奈ちゃんに、わたしは勝手にそうやでって自問する。

「喋られへんのやなくて、喋らへんのや」

 多分、お父さんが言ってたように、お母さんと一緒におっても、幸せやなかったんやないやろか。かわいそ。


 あれから数週間が過ぎて、洋服も持って来なかった可奈子は、わたしの服を着るようになり、手入れできてなかった髪の毛も、わたしと同じ美容院に連れて行き、同じようなショートカットになってますます見分けがつかへんようになってきた。

 それからもシンタは、わたしが夏期講習に行ってる間、可奈子と勉強したり、オセロで遊んだり、一緒にアニメを見たりして遊んだらしい。

 おとなしいと思ってた可奈子は、日に日に笑顔を戻していき、少しずつ喋るようになっていった。

 

  

「もうどっちがどっちか分からんようなってきたなぁ」



 夏休みが、後数日で終わりを告げる頃になって、シンタがそんなことを言ってきた。

 わたしはお父さんに、このまま可奈子も一緒に暮らせへんやろか?ってお願いをした。

少し考えてたお父さんは、実はな、と、里香子にだけ言うけど、お母さんは再婚が決まっててお爺ちゃん家から出て行くんだと、本当は可奈子も連れて行きたいんやけど、お爺ちゃんは離してくれないのだと。その話を聞いて、可奈子のカラダにアザがあったって話をしたけど、それを聞いたお父さんは可奈子に確認したけど自分で転んでできた傷やって話したらしい。そんなことないで、あれはなんか誰かにされたんちゃうん?って言ったら誰かって誰や?ってお父さんは笑ってた。そんなん、お母さんがするわけないやん。決まってるやん。

「ほんなら、もうええんちゃう?可奈子も一緒に、ここで暮らそうや。シンタもその方が良いって言うに決まってるで」そう言ったわたしに、お父さんは、いや…と、こないだお母さんから電話が来て、可奈子に変わると、自分の口で、お爺ちゃん家に帰ると言ったんやそうやって。

「可奈子がそう言うんやから、引き止められへん。もうお爺ちゃんの姓を名乗ってる可奈子を、お爺ちゃんが手放すとも思われへん」

「でもな、ほんまは嫌なんかもしれんやん、だから、学校も行けへんくなって」


 里香子は優しなぁ。


 そう言ったお父さんは、でもな、そんな簡単ちゃうねん。て、お母さんと離婚したときに、可奈子は、もうウチの子やのうなったんや、って


 そんなん、可哀想やん。

 なんで?何でなん?

 




 うちに来た時に比べると、顔もふっくらして、わたしの服を着てる可奈子は、本当に瓜二つの一卵性のふたごやった。



「もうどっちがどっちか分からんようなってきたな」

 シンタが、カレーライスを口いっぱいに頬張って、そんなことを言う。

 夏期講習も最後の日やったから、理奈ちゃんとか他の学校の友達と喋ってていつもより帰りが遅くなってもうて、家に帰って夕飯の買い物に行こうと思ったら、里香子がカレーを作ったようで、家中に匂いが充満していた。




「な…なにアホなこと言うてんの?」

 夕飯時、お父さんも帰って来て4人で食卓を囲む。


「おねぇちゃん、また学校休みになったら、遊びに来てや」シンタがわたしに向かってそう放つ。

「え?なに間違えてんの?シンタ、アホちゃう。わたしが里香子」

 そう言うと、不思議そうにポカンと口を開けたシンタが、え?っと言って笑った。


「ヨカッタなぁ、そんな冗談まで言えるようになったんやね。ホンマに、最初来たときはすんごい大人しいから、どないしょって思たわ」と、お父さんが放った。


(え?は?)


「可奈子、今日、お爺ちゃんがお迎えが来るみたいやから、帰る用意しなさい」

「ちょ、お父さんまで、なに言ってんの?わたしは里香子や」


「なに言ってんの可奈子、いい加減にせな怒るで」と、可奈子が放つ。


 目の前の可奈子が、声を出して笑い出した。

「帰りたくないんか知らんけど、ここはわたしの家やから、もう夏休みも終わるし、学校始まんで?ほら教科書見せたったからもう大丈夫やろ?授業、付いて行けんかった恥ずかしいやんな?」


「なに、言っとんの?わたしが里香子や」


 そう言うと、お父さんは、そう言えばと、

「二人とも覚えてへんやろけど、幼稚園の時にもな、おんなじやったわ。可奈子が、里香子と離れ離れになりたくないって泣いてな、大変やったわ」


「えー?そうなん?覚えてへんわぁ」


__違う、あれは、里香子が、お母さんと離れたくないって言ったからや。


「ちょっと待って、何の冗談?みんないい加減にして。それに、可奈子、えらい喋れるようになってるやん。何なん?」

「………」

「なに、言ってるん?喋ってなかったんは、可奈子ちゃんやん」

 シンタがわたしを見て悲しそうに笑う。そのシンタを、可奈子がそっと包み込む。

「そや、だからな、シンタ、こっちがおねえちゃんや。里・香・子」

「いい加減にしなさい。可奈子、お母さんが、虚言癖があるとか言い出したのはほんまやってんな」

「え?」


「自分のこと、里香子って言うてみたり」



 __突然、自分のことを、実は里香子だとか言い出したの。自分で、自分を傷つけて、学校にも行かなくなって、最初は、再婚が嫌なんだって思っていたら、どうも違ってたみたいなの……。




シンタを抱きしめながら、可奈子が呟く。


「もう終わりやで、可奈子」


 お父さんはわたしの前に跪き、お母さんとお爺ちゃんをもう困らせれたらあかんよっって、いくら双子だからって、親が、自分の子を間違える訳が、ないやろ?って、笑ってみせた。


「ホンマに、泣き虫やなぁ、可奈子は」



 そして、目の前の、わたしと同じ顔をした彼女が、6年前に言った言葉を思います。



『ねぇ可奈子。わたし、お母さんと離れとうない、そやから、今日から里香子になってくれへん?そしたら、わたしの宝物、全部あげる』

 

 そう言って、泣き真似をした里香子と、カンカンに入ったたくさんのアクセサリーと、あの夏の日に、指切りげんまんした二人だけの夜と。



 あの日と同じように、お揃いのワンピースを着た可奈子と里香子の前に、夕立が降りそうだった空が少しずつ晴れて、


泣き出した可奈子の、叫び声だけが響き渡った。