町外れのアトリエ。
流れる空気に混じった、甘い絵の具の匂い。
光の篭る室内には、幾重にも重なった花束をモデルに、キャンバスをなぞる筆音に満ちていた。
振り返りもしない彼のまあるい猫背。
おっきな背中を丸めて、せわしなく絵筆を動かす様子は、こどもに摘まれたカブト虫みたいで、どこかおかしかった。
私は、あなたのかさかさになって汚れた手を握りたいって、伸ばし放題になった髭面に触れたいって、ずっと思っていた。
……私は、
この人のことをきっと好きになるって気がついた時、
馬鹿みたいな確信と、
直ぐに溶けてしまうくらいに淡い期待に、
身体のあちこちを緊張させたんだ。