雫は蜜柑が好きだ。

けれど、蜜柑の皮をむくのが物凄く下手だ。

「む………」

眉間にシワを寄せて、うなりながら…

まるで、緻密作業でもしてるかのような顔つきなのに、

手に持っているのは皮がボロボロにしか剥けてない蜜柑。

剥けても、雫の小指ほどの大きさしか剥けない。

時には果肉に爪が突き刺さって、えぐれたような場所も多々見受けられる。

「雫、剥いてあげるよ?」

心配になった誰かがそう言うも

「自分でやるの!!」

ガンとして譲らない雫。

ボロボロになった蜜柑を食べ終われば再び再挑戦する。

結果はボロボロ…。

皆、苦笑を隠せない中、雫はオレの隣にちょこんと座って、また新たな蜜柑を差し出してくる。

「剥くのか?」

「お手本見せて?」

「………」

果たして、蜜柑の皮むきに手本などあるのかどうか知らないが、

慣れた手つきでオレが剥くのをじっと見てくる。

ボロボロになった雫の蜜柑と、傷の無いオレの蜜柑。

明らかに美味しそうなのは目に見えてて、

「ユウキ君あーん」

そう言って、自分のボロボロ蜜柑をオレの口に丸々1つ放りこんで、オレの手から綺麗な蜜柑を奪っていく。

「なんで、こんなにキレイに剥けるの?」

「さあな」

剥いた皮を不思議そう見ながらも美味しそうにオレの剥いた蜜柑を頬張る雫に頬が緩んだ。
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