優しくされていること。
甘やかされているということ。
少しずつ緩まりを見せる君の、チャックを上げる指。
オスどもに餌を与え過ぎないでね。
私は子供じみた目で君を見る。
-----
種がないという葡萄をひとつずつ口に運びながら考える。
あのひとがいなくなる世界線のなかで生きている私は、時々生きているのかどうかさえ分からなくなるのだ。
ぬるい寒天のなかみたいな、固まった空気のなかでぼうっとして。
だから君や誰かが時として夢や幻だったのだろうかと思うとき、ちっとも不思議ではないのだ。
私やあのひとが定かではないというのに、他の何かたちが現実のはずはないのだから。
明かりの消えたキッチン。
あのひとの部屋に繋がる電球に積もる埃は、あのひとの部屋とは違うものだろうか。
-----
過去に固執して生きるのはやめなさいと、口を揃えて私を諭すひとたちのとんちんかんなことに安堵する。
ああこのひとが全く、私のことなどこれっぽっちも知らなくて本当に良かった。
時間の長さや思い出の美しさなどに拘っているのではないということや、そんなものは報われないなどという言葉の無責任さと無知に一層感心さえする。
生きていくということの軸がある、という話を真剣な顔で聞いている君の頷く様に満足して微笑む。
深入りのされない優しさ。
そうして居心地の良さばかり数えて、一体何を正当化しようとしているのだろうか。