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「どうしたんですか、何処か具合でも…」

 心配そうな顔をして、彼の強張る頬に触れた紗夜だったが、不意に視線が合っては暫し黙る。

 妙な静寂を経た後、途端に慌てたように体を後ろへ仰け反らせ、持て余した両手をテーブルの下に沈めた。

 あまりの慌てっぷりに礒部は呆けてしまったが、やがて自身も気恥ずかしさを感じて咳払いをした。

「………花梨、いい加減出てこい。」

 彼の言葉に驚いて振り返ると、花梨が近くの柱に身を潜めて此方の様子を窺っていた。

「…かずが耳赤くしてるの初めて見た。」

「花梨。」

 軽く叱るように名を呼び、近くにやって来た花梨のキャップ帽を深く被せた。

「す、すみません。に、二度と変な真似はしませんから…」

 申し訳なさそうに謝る紗夜を見上げ、花梨は何処か責めるような目で礒部を振り返る。

 何で謝らせてるんだ、と暗に言われているような気がした礒部は、気まずさを拭えぬままに視線を泳がせる。

「いや別に、君は何も」

「さや。」

「……紗夜は悪くないから。頭を上げろ。」

 渋々だが名を呼んだ礒部に、花梨は満足げに紗夜の隣の席に戻った。

 仲直りしたと思っているのは少女だけで、残り二人は初々しい反応を示すばかりだったが。
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