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途端に鼻腔をくすぐる紫煙の香りに顔がゆるむのが分かる。ソファでもなく、デスクの縁に浅く腰かけ煙草をくわえるその人は、私と目を合わせもせず。 『だらしねぇ顔すんな』 「会いたかったです澤木さん」 『うるせえ』 フライフロントのカーキシャツは第二までボタンが開いており、合わせていたであろう細いタイがデスクの上にぶん投げられていた。 腕まくりをしたそのまま「よこせ」と。 どうぞ、なんてマグを渡すと目の前の澤木さんは眉根を寄せて紫煙を吐き出す。 『よし、相変わらずちゃんと俺のもんって顔してるな』 「勿論です!」 『走るのはやめろ。こっちの部屋まで足音聞こえたぞ』 「早く会いたかったんです」 『お前のためならいくらでも時間作ってやっからやめろ』 馬鹿が、とワンテンポ遅れて付け足された言葉に笑うと、中指と薬指の間に器用に煙草を挟んだ手でマグを傾ける。 『……これ飲みに帰ってきてるよーなもんだ』 澤木さんは、肩眉を上げて微笑して。それからテンションが上がりっぱなしの私に「その顔安心するわ」と少しからかうように言った。