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誰かじゃない。対象は理不尽な不幸をもたらした相手ではなく、理不尽な不幸を感じた自分の恐怖なのだ。

その恐怖に向き合わなければ、本当の意味でスッキリなんてできないし安心して眠れることもないだろう。

「復讐なんてものは大体が逃げだ。恨むことで己に降りかかった理不尽に理由をつけられるからね。」

「…っ、」

「でも実際はそうじゃない。貧乏だからとか、頭が悪いからとか、弱いからとかさ。そんなの理由にならない。虐める方にも問題はあるかもしれないが、虐められる側にも問題はあるんだよ。」

「………、」

「自分のことを諦めるのは簡単だ。自分はこうだからって決めつけるのも簡単だよね。諦めてるからこそ自分にもたらされる誰かからの理不尽はその人のせいにすればラクで、恨んで憎むだけで己を肯定できるんだから。」

「………………っ。」

「己に降りかかる理不尽に抵抗するのを諦めるから復讐なんて思考になるんだ。やられたことはやり返せばいいって思ってしまうんだよ。やられてしまったことへの自分の無力さや不甲斐なさを棚に上げてしまうほうがラクだからね。」
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