シェア
玲さんのセリフに胸が高鳴り、私は1人照れながら上半身を起こした。513ページより
「じゃあ、抱き締めて?」
「……」
あれ? これでも勇気を振り絞って言ったつもり。
反応がないのは……かなりショック。
挙げ句、眉を僅かに寄せて考えてるみたいだし。
「……いいですよ。もう」
「だったら早く寝ろ」
私の気持ちなんて全く分かってない玲さんはそれだけ言うと、直ぐに部屋を出ていこうとした。
それに頷きながらも完全拗ねる私。
玲さんは部屋のドアを開けてから私へと振り返った。
「……まあ……その、そんなに拗ねんな」
珍しく口籠もり、少し気まずそう。
「え?」
「俺の事情ってヤツだ」
「玲さんの、事情?」
首を傾げて問う私に玲さんは苦笑いを浮かべて頷く。
「初日からカレンさんとの約束を破るワケにはいかねぇだろ?」
「うん……?」
約束って“節度のある生活を”ってやつよね?
それが今の事と、どう玲さんの事情に繋がるのか。
「俺の理性が自分で思ってたより、相当やべぇって事だよ。今の事も、一緒に暮らす事も、自分で言った事だが、先行き不安だ……」
一方的にそれだけ言い残すと、直ぐにドアを閉めて下へ降りてしまった。
1人残された部屋でドアを呆然と見つめる。
理性が……ヤバい?
それって、さっきの抱き締めてって私が言った事でって事?
「え!? あれだけで? あの玲さんが?」
驚き過ぎて思わず出た声。慌てて手で口を押さえた。
昨日そう言えば玲さん言ってた。
『男は色々大変なんだ』って。
玲さんは玲さんで色々と悩んでて、男の人って……自分が思ってる以上に本当に大変なのかもしれない。