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額を覆っていたその手はあたしへと伸ばされる。驚いて数歩後ろに後退すると廊下の壁に背中が触れた。

あたしに伸ばされたと思っていたその手は、あたしには一切触れる事なく顔横の壁へとトンと着き、前方から逃げ場を塞がれた。

怒っているのかもしれない、――――何かに。

「これで自覚を持って」

優はムっと口を一度だけ曲げ、そっと長い睫を伏せた。ゆっくりと顔の位置を落とし、横向かせ、あたしに顔をーーーってちょっと待て、顔が。

「ちかっ、」

優さん、優くん、優!その綺麗なお顔がちょっと近すぎやしませんか。

近いどころか、触れてーーーーーいるのは気のせいですか。

パッチリと目を見開いたまま間近の優の顔を見る。目を閉じて、あたしにキスをする優の顔を凝視する。

時間はどれくらい経ったのか分からなかった。息すらたぶん、吸えてなかった。

あたしにキスをした優は、名残惜しそうにチュっとリップ音をわざとらしく鳴らして唇と唇をそっと、ゆっくり離した。

屈んでいたその姿勢をしっかりと正し、あたしを見下ろすと硬直するあたしに告げる。

「男は皆、狼なんやで愛理ちゃん」

「……」

「分かったら部屋に行ってください。このままここに居られたら、もっと凄い事するかもしれんよ?」

「っ!!」
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