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 人々は昔から、異界――人間の暮らす場所とは異なる世界――は自分たちの生活圏と地続きにあると考えていたようだ。
 たとえば橋なんかは、この世とあの世をつなぐ存在だと考えられていた。
 大昔、一度死んだ人間が橋の上で生き返ったという伝承があったり、橋の上で行う〝橋占〟という占いが残っていたりする。
 それは、当時の人々が橋というものにこの世のものならざる何らかの神秘性を見い出していたからだろう。
 また、辻というのも異界に通じる場所だと考えられていた。
 辻からは辻神と呼ばれるものが異界から訪れるため、角に魔除けの石を置くような風習があった。これと同じようなものに、辻切りという縄や札をかけるものもあった。
 三叉路には鬼や幽霊が出るといった怪談も多く存在する。複数の道がぶつかる場所、またはその角というのは、何か得体の知れないものが現れると信じられていたようだ。
 同様に異界へ通じるものと考えられているものには、坂や峠、もっと身近なものなら階段が挙げられるだろう。
 非常階段や螺旋階段に幽霊が現れるという話。十三階段という、アパートなどに出没する毎日一段ずつ階段を上がってくる怪異の話。
 または、階段を上るときと下るときに数えると数が合わないといった話や、階段を下りても下りても階下にたどり着けなくなるという恐怖体験など、ささやかなものを含めると階段にまつわる怖い話はかなりの数がありそうだ。
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