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307ページより
相馬彰の手に力が込められようとした瞬間、彼は躊躇ったように、視線を泳がせた。
そして小さく、息を吐く。
「・・・・茉里。」
呟く様に放たれたその呼びかけに、茉里の身体がはっきりと強張った。
返す言葉もない茉里はただ、見開いた目を母親の朱に向けていて。
そんな彼女に相馬彰は優しい笑顔を向けた。
「すまなかった。」
笑顔での謝罪など、違和感しか無いのに。
「ッッ、」
茉里の表情は少し、嬉しそうで。
父親が娘に笑いかけることすら嫌がったと言っていた茉里の言葉を思い出し、抱く腕に力がこもった。
「だけど俺は…、こいつを一人になんて、できないんだっ、」
震える声を出し、泣き笑いでそう言う相馬彰は、物言わぬ相馬まりかをきつく抱き寄せた。
「相馬っ!早まるんじゃないっ!」
流石に黙っていられなくなったサツが歩み寄ろうとするのを、相馬彰はナイフを持つ手に力を込めることで静止させた。
そして涙の流れるその顔を、頭に向ける。
「頼む。まりかが寂しがるんだ。死んでも俺達を、」
”引き離したりはしないでくれ”
懇願するその声は、悲痛に染まっていて。
頭が小さく頷くのを確認した相馬彰は、ホッとしたように笑みを漏らした。