by
僕みたいな人間は、セーラにとってはほとんど心にも留まらない、ちっぽけな存在なんだと思っていた。

セーラは、僕の家系を、ずっと知ってる。

僕も、ただのその中の一人にしか見てもらえないと思ってた。

だから、今日この最後の日に、セーラが僕のもとへ来てくれるなんて。

「僕は……幸福者だな」

君は、優しい人だね。

「人生の最後を……セーラに看取ってもらえるなんて……」

「……何言ってるんだ、私はおまえの命を狩りに来た死神だぞ」

「セーラは死神なんかじゃないよ」

セーラの正体を、知っているわけではない。

詮索しようとも思わなかった。

だって、セーラは、セーラなのだから。

不思議で、魅力的で。

いつも笑っていて。

だけどお墓の前に膝まづく彼女の後ろ姿は、とても細く感じられて。

それが僕の知るすべて。

たとえ、彼女の正体が死神でも、関係ない。

一年に一度、その姿を一目見ただけで、僕は、幸せだった。

彼女は僕に、幸せをくれたのだから。
123ページより