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僕みたいな人間は、セーラにとってはほとんど心にも留まらない、ちっぽけな存在なんだと思っていた。セーラは、僕の家系を、ずっと知ってる。僕も、ただのその中の一人にしか見てもらえないと思ってた。だから、今日この最後の日に、セーラが僕のもとへ来てくれるなんて。「僕は……幸福者だな」君は、優しい人だね。「人生の最後を……セーラに看取ってもらえるなんて……」「……何言ってるんだ、私はおまえの命を狩りに来た死神だぞ」「セーラは死神なんかじゃないよ」セーラの正体を、知っているわけではない。詮索しようとも思わなかった。だって、セーラは、セーラなのだから。不思議で、魅力的で。いつも笑っていて。だけどお墓の前に膝まづく彼女の後ろ姿は、とても細く感じられて。それが僕の知るすべて。たとえ、彼女の正体が死神でも、関係ない。一年に一度、その姿を一目見ただけで、僕は、幸せだった。彼女は僕に、幸せをくれたのだから。