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ところが急に黒馬が大きく嘶き、前足を振り上げた。
「うわ!」
「こいつ!」
 ぶんぶんと首を振り、額の角で兵士たちを威嚇する姿に、恐れた兵士が驚き剣を振り回す。

「うわああーっ」

 ざくり

「え……」

 その剣がリリーシアの脇を裂いた。
 
「あ!」
「ああ……?」
「リリー!」

 ドプンと血のついた剣が泉に落ちるのが見えるのと、自分の脇腹が酷く熱いと気付いたのはほぼ同時だった。そこに手を触れればヌルリと生温かい感触が溢れてきて、反射的にきつく押さえる。
 かと思えば急に入らなくなった膝から頽れるリリーシアを、黒馬が噛んで支えた。

「何をしているんだ! 早くその悪鬼からリリーシアを取り戻せ!」

 アレクシオの叫び声と共に黒馬が怒りを見せたように嘶いて、その背中に大きな翼を生やした。
 ワッと恐怖が場を占める。

「化け物め!」
 奮起する兵士たちに混じるアレクシオの声を聞きながら、ふわりと身体が浮いたような気がした。
「リリー!」
 熱い……眠い……
 けれどリリーシアは重くなる瞼に抗えず、そのまま目を閉じ、意識を手放した。
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