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「今日は花、俺に売ってくれないの?」「か、買ってくれますか?」「うん」子供は慌てて花の盛られたカゴを俺の前に差し出した。千紫万紅。とりどりのカラーは鮮やかだ。俺はその中でも一番みすぼらしい、萎れかけの花を一輪買ってその場をあとにした。少し歩くと、綾瀬がベンチに座って、ショップで買ったコーヒーを薬みたいにガブ飲みしながら眠気を覚まそうとしていた。働きすぎなんだろうな。ざまあみろ社畜。過労で倒れたって俺は知らない。まず綾瀬なんて重くて運べない。「あ、千春おかえり。パン買ってきてくれた?焼きたてだよ、焼きたて!」「朝一で行ったんだから全部焼きたてに決まってるじゃん」大量のパンが入った紙袋を綾瀬にドンと押し付ける。綾瀬は徹夜の連続からか、髪の毛がボサボサにの苦学生みたいな風体のまま、早速パンを一かじりした。金があるんだからもっと豪勢なもの食えばいいのに。それかそこらへんの虫とか。「あ、見て、花入ってる。おまけかな?」紙袋の中に入ってる花を見て、綾瀬が何か嬉しいのかはしゃぎだした。俺は綾瀬から距離をとる為にベンチの端へと移動する。「半分萎れてるじゃん。花が欲しいなら、もっといい花買ってこいよ」「萎れてても花は花だよ、千春」みすぼらしい、痩せ細った栄養不足の花を見て喜ぶ綾瀬。そんな付き合いの長い相手を横目でちらりと見やった俺は、小さく唇の端をあげた。「綾瀬に言われなくても知ってるよ」けど綾瀬なら、そう、言ってくれるとおもってた。