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「いや、ないよ」

「泣き言、あるんじゃねえのか~?」

「ないよ」

マジでこれ以上甘やかさないでくれ頼むから。

むしろあたしが甘やかしたいのに。

キャラ的にそうだろ。

ゴリラの方がはるかに包容力があるだろ。

だけど葵くんが、いつもはそんな事絶対言わないのに、

いつもは皮肉めいた笑顔ばっかりするのに、

「泣いてもいいぜ、オメーなら許しちゃるよ」

日だまりのような瞳であたしを見て手を広げるから、一筋だけ、涙が頬を伝った。

はらり、と。

「ほーらほら、出血大サービスじゃねえのよ」

「おかしいな・・・・あららおかしいな。目から温泉がわき出てきた」

「よしよし。おいで~、ミホちゃん」

なだめるようにそう言ってまた、葵くんがあたしを引き寄せた。

そんな優しい声も出せるんだと、ぼんやり思うとまた視界がぐらつく。

「よしよし」

ぽんぽん、葵くんの手があたしの背中を叩く。

叩きながらあたしの名前を呼ぶ。

呼びながら、

「俺は口が堅いからな。泣いても誰にも言わねえよ」

両手であたしの背中を絶えず叩きながら、静かに言った。
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