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理玖が「月夜子さん」とと私を呼んだ。129ページより
「何?」
「俺と結婚しよう」
「……うん。そのつもりだよ」
今更どうしたのかと不思議に思う私と反対に、男はなぜか口元を楽しそうに緩ませる。
「理玖?」
「いや、何度してもいいなと思って」
その顔がこちらへ向けられて、唇がそっと耳元へ寄る。
車内には次の駅での乗り換えを案内するアナウンスが流れていた。
だけど私には、天栗理玖の声しか聞こえなかった。
「月夜子さんへのプロポーズは何度もしたくなる」
「な、にそれ」
「だって答えがイエスしかないから」
「それは……そうなんだから仕方ないでしょう」
「うん。だから俺はすごく幸せな男だと思う」
心の底から幸せそうな顔でそんなことを言うのはずるいにも程がある。
もう返せる言葉なんてなくて、ただその幸福に愛に揺られることしか出来ない。