「………ぁっ、」

────"そういう時"にこんな声を出すのは大袈裟すぎで、それも相手を煽るために恣意的に出しているもんなんだと、私はずっと思っていた。

ほら。よくいるでしょ。

現に私が見てきた女たちはだいたいこんなんで。喘ぎ声だってドン引きしちゃうくらいにねっとりと、欲深く吐き出してる。

私はそんなの信じなかったけど。

だって、出たことはこれまでに一度もないから。晄との時だって、激しい動きに息を切らしているだけで、頭の中はごく冷静。

"かわいい"だとか、"サイコー"とか、そんな熱っぽい台詞を耳元で聞きながら、私はよくぼんやりと時計の針を眺めていたりしていた。

セックスというものは、そういうもん。

なんか挿れられてるって、そんなもん。

感度がイカれてんのか、ビリビリとした刺激も何も感じない。脳天を擽ぐるようにゾクゾクするって何…?って感じ。

緊張なんてもんも、裸を見られるのが恥ずかしいって思う気持ちも、徐々に服を脱がされてゆくあれがたまんないだとか…全部、戯言でしょ?って。
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