by
っ」

頬をなでる手をそのまま私の首筋へと移動させながら、泉は尚も続ける。

「お前が世那や父親と会えて、幸せそうにしてるのは嬉しい」

「⋯⋯⋯⋯」

「だけど沙羅の大切なものが増えてくたびに、どこかで面白くないと思ってる」

哀しみを帯びた瞳が、泉の心を映すように私をとらえる。

「沙羅の心にいるのは、俺だけでいいのに」

「っ、」

「⋯⋯お前を連れ戻したのは俺なのに、今度は世那達に嫉妬してる」

自嘲気味に吐き出した言葉が、弱々しく私の耳に響く。

⋯⋯泉のこんな顔、見たことがない。

まるで私に拒否されるのを恐れるような、そんな表情。

いつも寡黙で無表情な泉が、ひとりぼっちの小さな子どものように私を見ている。
520ページより