by
だからって⋯殴ることないでしょ」

「お前のことになると、抑えがきかない」

今さらだけど、赤い頰を隠しながらため息を吐く私に、泉はさらりと返事をする。

⋯⋯なぜそんなことをこんなに平気な顔で言えるのか、私は一生理解出来ない気がする。

「好きだ。どうしようもなく惚れてる」

いつかこの愛のセリフに慣れる日が来るのか。

未来のことはよくわからない。

だけどこの先、こんなにも私を想ってくれる人はきっと、二度と現れないのだと思う。

『ご愁傷様。きっと彼、一生逃がしてくれないよ?』

笑い混じりに呟いた凛の言葉に、嬉しいと思ってしまう私も、相当やられているような気もする。

泉の手のひらにある藍色のそれを指ですくって、自分の手の中にぎゅっと握る。

「⋯⋯これ、ありがとう」

握っていない方の手を泉の肩にかけ、背伸びをして。

「私も⋯⋯好き、だから」

これまでとこれからの色んな想いを込めて、そっと泉の唇にキスを落とした。

恥ずかしいから、二度としないけど。
531ページより