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「ほら。起きて。起きなきゃくすぐるよ」

もちろん返事はなく、ピクリとも動かない。

「5秒だけ待ってあげる。それでも起きなかったら、全力でくすぐるから」

「せっかちか」

「せっかちだよ」

毛布の下から、くぐもった声がした。

「5、4、3…」

カウントダウンしながら、毛布の隅を、そっと両手で掴んで、ゆっくりゆっくりベッドに乗った。

ゼロで一気に引っぺがしてやろう。

抵抗するだろうから、上に乗って、抱きしめて、寒くないでしょって言ってやろう。

妄想でにやけながら、進めていく。

「イーチ、ゼーーーロッ!ちょ、」

突然、毛布を跳ね飛ばして伸びてきた腕が、私に襲い掛かる。

グイと引っ張られ、胸から着地したのは、コウの腕の中。

身動きできないくらい抱きしめられ、どうやったのか、ふわりと毛布に包まれた。

「買い物は夕方からに変更しろ。ランチもディナーだ。美味い酒飲むぞ」

ふむ。

魅力的な計画変更。

ランチよりお酒。

ショッピングより、コウの温もり。

「しょうがないなあ」

ごろごろと、胸に甘えると、腕の力が緩んだ。

後頭部を撫でられ、指が髪の毛を流れる。

気持ちいいなあ。

せっかくだから、コウの気が済むまで寝させてあげる。

その代わり、このままわたしを抱きしめていてね。

end

489ページより