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「…馬鹿だな、あんたは…」 死に至るほどの出血。 聖亜の容態は深刻だった。 朝を迎える事は難しいかも知れないと、覚悟をする様に宣告された。 蒼白な頬にそっと触れる。 柔らかなそれは温かく、まだ生きている。 「俺が言った事、忘れたのか?」 流霞の声は聞き取れないほど低く掠れ、勿論それを聞く誰かはこの部屋に聖亜以外居ない。 絹の手触りの頬に触れていた手をそっと動かし、無粋なそれをゆっくり外す。 色失せた唇を指先でなぞる。 この唇に幾度、口付けただろう。 「この手で幕を下ろすって…」 いつもならば温かく柔らかな筈の冷たい唇に、静かに自らのそれを重ねる。 「どうしても耐えられなかったら殺せって…」 血で汚れ、絡んだ漆黒の髪を優しく梳く。 「俺が殺してやるって…言っただろ?」 意識の無い聖亜の唇が、僅かに開いた気がした。 誘う様に…。 「…聖亜」 愛しくて大切で、掛け替えの無い女。 唯一絶対的な至高の存在。 狂気でも執着でも、決して赦されない禁忌でも…。 ───── これは…。 俺の女だ ───── 。