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「『私でなくなって、彼らと離れることを望んでしまったら』」

「.........」

「『諭してほしいんです、私を。決して、彼らの傍から離れないように』」

あの時、不覚にも泣きそうになった。

「『彼らのことを、支え続けるように』」

これ以上の優しさに溢れた言葉なんて、ないんじゃないだろうかと。

そう思ってしまうほど。

ただ優しくて、強い言葉だった。

「『どうかお願いします』と。こう仰っていました」

『お願い』と言ってしまうには、あまりにも私欲の無い。

とても綺麗な望み。

「...華月嬢らしいの」

「ふふ。私もそう思います」

はらりと。

緊張で張っていた空気が割れる。

にっと。

いつものように、不敵に口角を上げた椿様は。

「昴が華月嬢を連れ戻して来れんような、そんな程度の男なら勘当じゃな」

「ちょ、勘当って!」

「そんな腑抜けた跡取りはいらん」

またこの人は突飛なことを。

しかも楽しげに。

勘当なんてしてしまったら、『暁』を継ぐ人間がいなくなるでしょうに。

「椿様」

でも、まぁ。

「昴様は絶対、連れ帰りますよ」

その自信がある。

「あの方は、あなたの血を色濃く継いでいますから」

そう告げれば、目の前の主はケラケラと笑った。
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