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「(よし、戻ろう)」戻って、謝って、それからいずれかの連絡手段を聞いてさくっと帰ろう。意を決して額からスマホを離したその時、私のスマホは誰の手に覆われた。綺麗な指に乗ったそのリングは、見覚えがあるデザインだった。「怒りん坊」「……、」振り返ると、そこには私服姿のチカが居た。無表情な様は、いつもより大人びた表情で。不覚にもそれを目にした瞬間、鼻の奥がツンとした。「結乃さん、俺に何か言うことなーい?」チカが顔を屈める。少し高い位置にある彼の頭からブラウンの髪が枝垂れ桜のように垂れてくる。視界一面に広がる綺麗な顔のどこを見たらいいのかわからず、焦点が定まらない。けれどもチカは慣れたように私の瞳を見つめる。誘導してくれる。「……大人気ない態度取って、ごめんなさい」素直になれない私を、チカがこっちだよと手を引いてくれている気がした。