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「イチ。ここまで連れてきてくれてありがとう」「構わない。それで、なにか役に立ちそうか」「うん。おかげで、やることが決まった」「そうか。で、どの方向に突き進む気だ?」「……俺、イチの中でイノシシか何かか?」抗議の視線を投げると、イチは小さく首を縦に振る。否定しろよ。「……たぶん、リョウを見つけても、今の俺じゃ打つ手がない」「……」「だから、人質を探しだす」「数日以内でか」「う、糸口はもらったんだけど。厳しい、かな」見込みが甘かろうが、今の俺にできることはそれ以外に思い浮かばない。人質を解放すれば、”銀虎”の足かせは消える。衝突を避けられなくても、最悪の事態は防げるはずだ。「……俺たち、じゃないのか」「へ」「その腕で、一人でどこまで行こうとしてるんだ」見上げると、濃紺色の瞳とかち合う。路地の薄暗さが、その色をさらに深くさせる。「イチ、」「とことんまで付き合う気じゃなかったら、ここまで来ない」で、どうしたい。生ぬるい夏の夜風が路地を吹き通る。季節が進むとともに、俺たちの関係性も徐々に、その形を変えていく。イチの言葉は、静かなる変化の合図のようだった。