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久しぶりに、この地を踏んだ。

機会がなければ自分では来ない、そんな場所が誰にだって一つはあるだろう。

私にとってはこの山と田んぼに囲まれたここがそう。

生まれ育った地であり縁は深いのだけれども、親の転勤で高校生に差し掛かる多感な時期に遠く離れた県へと引っ越したことで全ての距離を置いてしまった。

結局戻ることも頻繁に思い返すこともなく、移住した地に腰を据えて生活していたものだから、今自分の目に映る景色の懐かしくて新鮮な気持ちが不思議な気分を味わわせてくれる。

何よりここに来ると知ってから、胸のざわめきが止まらなかった。
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